2019年12月28日

アニエス・ヴァルダをもっと知るための3本の映画

特集上映「アニエス・ヴァルダをもっと知るための3本の映画」

『アニエスによるヴァルダ』監督:アニエス・ヴァルダ|製作:ロザリー・ヴァルダ|2019年/フランス/119分

*劇場初公開『ラ・ポワント・クールト』監督・脚本:アニエス・ヴァルダ|編集:アラン・レネ|出演:フィリップ・ノワレ、シルヴィア・モンフォール|1954年/フランス/80分

*劇場初公開『ダゲール街の人々』監督:アニエス・ヴァルダ|撮影:ウィリアム・ルプシャンスキー、ヌーリス・アヴィヴ|1975年/フランス/79分



2019年12月21日(土)より、シアター・イメージフォーラム他全国順次ロードショー
公式サイト:http://www.zaziefilms.com/agnesvarda/


映画史上最も偉大な女性監督の一人であるアニエス・ヴァルダの新作一本と初公開の映画二本からなる特集。

こないだもどこかで女性監督による映画ランキングとかいう変なものがあって、しかしアニエス・ヴァルダがベスト10に数本入っていることには素直に納得。

傑作「アニエスの浜辺」で自身の人生と作品を総括したと思ったが、新作『アニエスによるヴァルダ』ではゲストとの講演を通じながら作品作りの技法を紐解いていく。

劇場初公開の『ラ・ポワント・クールト』は、ゴダールの「勝手にしやがれ」より5年、トリュフォーの「大人は判ってくれない」よりも4年も前に作られ、ヌーヴェルヴァーグの起源とも呼ばれている作品とのこと。
海辺の町で心がすれ違っていく夫婦をロケーションを生かしながら描いていて、なるほど当然ながらヌーヴェルヴァーグ的である。

そしてこちらも劇場初公開の『ダゲール街の人々』は下町の商店で働く人々を捉えたドキュメンタリーで、とんでもなく面白い。
市井の人々の日常の営みをただただ映しているだけなのに、なぜこれほどまでに面白いのか。
それはひとえにカメラを構える側の姿勢(と被写体との距離感)にあると思うのだが、いずれにしろみずみずしい映像に興奮がさめやらない傑作。

最近ようやく女性映画監督がたくさん出てくるようになったけど、まだまだ足りない。
映画業界の各部署で女性の割合は上がってきたが、僕は特に女性プロデューサーに増えて欲しい。
それこそが日本映画の可能性を飛躍的に大きくする秘策だとすら思っている。
posted by 井川広太郎 at 09:20| Comment(0) | REVIEW | 更新情報をチェックする

2019年12月27日

ある女優の不在

「ある女優の不在」(2018年製作/100分/イラン/原題:3 Faces/配給:キノフィルムズ)



監督 ジャファル・パナヒ
製作 ジャファル・パナヒ
出演 ベーナーズ・ジャファリ、ジャファル・パナヒ、マルズィエ・レザイ、ナルゲス・デララム

公式サイト http://3faces.jp/
2019年12月13日ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国にて順次公開


見知らぬ少女の自殺動画を送りつけられた女優が、その真相を探るために映画監督と旅するロードムービー

今年観た映画の中でベスト。
イラン映画こそが世界最高峰であると再び知らせしめた歴史的傑作。

冒頭の自殺動画、その縦画面が持つ同時代性と独特の緊張感から途絶えることなく、女優と映画監督との奇妙な旅が始まる。

発端となった少女が自殺する様子を捉えた動画の真偽、その動画の中で女優が名指しされた意図、その女優はなぜ監督と共にいるのか、そもそも彼らはどこへ向かっているのか。

ドキュメンタリーなのかフィクションなのか、曖昧なままその境界線上を疾走する女優と映画監督を、本人達が自ら演じている。
これはまるでキアロスタミの「クローズアップ」。
謎が謎を呼ぶミステリーであり、同時に映画そのものが謎だらけというメタ構造を持っていて、メタクソ面白い。メタ構造だけに。

彼らが乗る車は、超大国イランの北西部、辺境に等しい地域に入っていく。
近代都市テヘランとは違い、ペルシャ語も通じず、異国のような世界。

大国家の片隅に、因習に縛られ、時代に取り残されたような人々がいる。
そこを彷徨っているうちに、二人の行程は時間旅行の様相を帯びてくる。

この映画の持つメタ構造からして自然な流れで真実と虚構との境界とは何か、演じるとは何か、俳優とは何かという問いが浮かんでくる。
そこを起点にイラン映画の歴史を遡り始め、その中でイラン革命をリアルに感じ、ついにはイランの壮大な歴史の旅へと誘われていく。

そして女優は、二人の別の女優の存在を知る。
歴史の波の中に消えてしまった女優と、遥かな未来に現れる女優。
原題の「3 Faces」は彼女たち三人の顔のことであり、これは同時にイランの現在、過去、未来を表している。
決してパナヒのおっさんのトボけた顔のことではない。つーかパナヒ監督、おみそれしました。すごい。すごい。

映画を見ていたはずの僕らも、いつの間にか女優と映画監督と共に旅をしていたのだ。
彼らの車に一緒に乗って、不思議な旅をしていた。

遥か遠くの乾いた大地に、これほど豊穣な営みがあると、いつか誰かが教えてくれた。
あの丘の先に、”ジグザク道”の向こう側が垣間見える。
キアロスタミの不在を超えて、光よりもまだ速く、映画はまた新たな地平を描いた。追い求めて。最高だ。
posted by 井川広太郎 at 17:47| Comment(0) | REVIEW | 更新情報をチェックする

イーディ、83歳 はじめての山登り

「イーディ、83歳 はじめての山登り」(2017年/イギリス/英語/102分/シネスコサイズ/原題:Edie/配給:アット エンタテインメント)



監督・脚本:サイモン・ハンター

公式サイト:http://www.at-e.co.jp/film/edie/
2020年1月、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開予定


老婆が人生を謳歌するために初めての登山に挑戦するドラマ

僕は登山ものだけは撮りたくないと思っているのだが、それは想像を絶するほどの苦労を伴うと分かっているからだ。
登山ものを撮る人は勇敢か、向こう見ずか、その両方かである。

ばあさんが登山するというプロットは素晴らしいのだが、彼女が置かれている状況や性格があまりにネガティブだったり、ドラマを盛り上げるためか無理な展開が多かったり、そのくせ肝心の登山のシーンが物足りなかったり。

原題はばあさんの名前そのままで「Edie」のようだが、邦題が「イーディ、83歳はじめての山登り」であって、さらに副題っぽい感じで「-Never too late-」と書いてある。
英語の副題をつけたということなのだろうか、いずれにしろ”遅すぎることなんてない”というのはまさに僕のテーマでもあるので「-Never too late-」と宣言した時点でこの映画は勝利している。

スコットランドの雄大な景色が美しく、そこに映える衣装の配色がオサレで、あんなウェアを着て山に登りたくなる。
だがカメラを持って行くつもりは断じてない。
posted by 井川広太郎 at 12:16| Comment(0) | lost in blog | 更新情報をチェックする

2019年12月26日

心霊マスターテープ

エンタメ〜テレのオリジナルドラマ「心霊マスターテープ」(寺内康太郎監督)に出演しています。
日本初の心霊ドキュメンタリーを現役のホラー監督たちが探すというドラマに、縁あって私も役者として参加させて頂きました。

そもそも「心霊ドキュメンタリー」とはナンジャラホイという方も多いかと思いますが、私も全く知りませんでした。
ですが今作を通して、そのねじ曲がって奥深い、狭くて広大な世界観に圧倒されております。

そもそも心霊ドキュメンタリーって、日本独自のジャンル?違うの?よく知らないし分からないや。

いずれにしろ中村義洋監督以下、歴代の心霊ドキュメンタリーの監督が総出演していて、さながら「心霊アベンジャーズ」!
ホラーが苦手で見てもないという不勉強な俺は多分、中村義洋監督に顔が似ていると言われたことがある人の枠でオファーされたんだと思う。

自分の演技どうこうはさておき、ハッキリ言ってメチャクチャ面白いものになると確信しています。
フェイクドキュメンタリーというかメタドキュメンタリーと呼ぶべきか、映像表現の最先端を突っ走っている快作ドラマなので、映画やTV業界の人たちはぶったまげると思うし、ホラーに興味がない人でも楽しめる作品になっています。

放送は1月11日からで、私も全6話のうちのどこかにちょこっと出ているので、是非チェックしてみて下さい!

心霊マスターテープ 公式サイト https://www.entermeitele.com/horror/shinrei_mastertape.html

posted by 井川広太郎 at 14:36| Comment(0) | lost in blog | 更新情報をチェックする

2019年12月15日

はなればなれに

アンナカリーナが亡くなった
全ての映画青年にとって恋人であった人

posted by 井川広太郎 at 22:19| Comment(0) | lost in blog | 更新情報をチェックする

2019年12月13日

「ハマの靴探偵」@ライフワークス特集上映

監督した短編コメディ映画「ハマの靴探偵」を含む連作ショートフィルム「ライフワークス」が2020年1月に横浜シネマリンとシネマ・ジャック&ベティにて特集上映されます!
「ライフワークス」は利重剛さんと中村高寛さんがプロデュースする横浜を舞台にした短編映画を連作するプロジェクトで、2014年にスタート。
その中から2016年以降に制作された作品を特集する今回は、利重剛さん、松居大悟さん、大崎章さん、七里圭さんなどバラエティに富んだ監督の短編映画が一挙上映されます。

「ハマの靴探偵」はクレイジーケンバンドのギタリスト小野瀬雅生さんが映画初主演!
小野瀬さん演じる靴を見れば何でも分かる“靴探偵”が、横浜の飲屋街・野毛を舞台に浪漫と哀愁の小冒険をするコメディです。
共演は俳優でありお笑い芸人でもある大重わたるさんと、演技初挑戦のキセリョヴァ・イェヴゲニヤさんで、劇中では日本語とロシア語が入り乱れます!
また野毛にあるピンク映画館「光音座」でロケさせて頂いた激レア作品なので、この機会に是非ご鑑賞下さい!

横浜シネマリン 1/18(土)〜1/24(金)※「ハマの靴探偵」はプログラムBにて上映
https://cinemarine.co.jp/lifeworks-special-screening/

シネマ・ジャックアンドベティ 1/25(土)〜1/31(金)※「ハマの靴探偵」はプログラムBにて上映
http://www.jackandbetty.net/cinema/detail/2209/

上映日時など詳細は各劇場にお問い合わせください。
どうぞよろしくお願いいたします。

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posted by 井川広太郎 at 15:38| Comment(0) | lost in blog | 更新情報をチェックする

2019年12月06日

ファンシー

「ファンシー」(2019年製作/102分/R15+/日本/配給:日本出版販売)



監督:廣田正興
原作:山本直樹
製作:安井邦好 岡本東郎 村田嘉邦
出演:永瀬正敏、窪田正孝、小西桜子、宇崎竜童、田口トモロヲ、深水元基、長谷川朝晴 、坂田聡、吉岡睦雄、榊󠄀英雄、佐藤江梨子

公式サイト http://fancy-movie.com/
2020年2月7日、東京・テアトル新宿ほか全国公開


山本直樹の漫画を原作に、彫り師兼郵便屋と、その親友で自称ペンギンの詩人と、詩人のファンの女との三角関係を描く

エンドロールで山本直樹の漫画が少し映るのだが、原作では詩人は本物のペンギンという設定だったらしいことを知り驚いた
なるほど、書く言葉は美しいがペンギンに過ぎない詩人を盲信するファンの女と、彼女を目覚めさせるために一肌脱ぐ郵便屋という構図は、”ファンシー=空想 ”の理解としてもエロスの表現としてよく分かる
原作を読みたくなった

日本を代表する名優が次から次に出てきてものすごく豪華なのだが、さらにロケ地である温泉街がなんとも日本的で魅力的
そこを舞台にエロ、バイオレンス、銃、ヤクザ、刺青、ヌード、反社会的勢力、セックスなどがてんこ盛りという過激さは、かつての東映を彷彿とさせる
こんな時代だからこそ刺激的な映画をもっと見たい
posted by 井川広太郎 at 00:53| Comment(0) | lost in blog | 更新情報をチェックする

2019年12月02日

家族を想うとき

「家族を想うとき」(2019年製作/100分/G/イギリス・フランス・ベルギー合作/原題:Sorry We Missed You/配給:ロングライド)



監督:ケン・ローチ
製作:レベッカ・オブライエン
製作総指揮:パスカル・コーシュトゥー グレゴリア・ソーラ バンサン・マラバル
出演:クリス・ヒッチェン、デビー・ハニーウッド、リス・ストーン、ケイティ・プロクター

公式サイト https://longride.jp/kazoku/
12/13(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかにて全国順次公開


宅配ドライバーに就業した父が過酷な労働とパワハラに苛まれ、家庭が崩壊して行く様を描くドラマ

実は最近のケンローチの作品はあまり見ていなかった。
ケスとかレディバードレディバードとか本当に好きで、学生時代には見まくって直筆サインも貰ったケンローチだが、ここのところはなんか離れていた。
そんなわけで久しぶりに見たケンローチなのだが、相変わらず弱者に暖かくも冷静で鋭い眼差しを向ける社会派の作品で、とにかく面白くて最高だった。

仕事を転々としてきた父が一念発起し、宅配ドライバーの仕事を得る。
だが個人事業主とは名ばかりに過酷な労働と厳しい契約を押し付けられ、家で過ごす時間を失い、心に余裕がなくなって行く。
介護サービスの仕事をする妻も、低賃金で長時間労働で公私の切り替えも出来ないハードな日々。
そんな家庭環境もあって高校生の息子は反抗し、幼い娘は家族の仲違いに感情的になっていく。
すれ違いが大きくなっていき、それぞれが孤立して行くが、それでも彼らは必死に家族の絆を取り戻そうとするのだが…

我々が享受している便利さや豊かさが一体何を犠牲にして成り立っているのかをつまびらかにしていく。
安いとか早いとか楽だとかいった看板を掲げるサービスの裏で、わずかな賃金のために人間がもっとも大切にすべき家族や家庭を代償にしている人たちが実際にいる。

そんな欺瞞を成り立たせている一因が、個人事業主だとかフランチャイズというの名を借りた新たな奴隷制度。
劣悪な労働環境によって成り立っているサービス、超低賃金の工場労働者によって作られる商品、そして彼らを縛る契約。
立派な起業家だとか経営者だというのなら、まずは従業員や労働者や契約先に十分な対価を与えてからにして欲しい。
どんなに華やかでどんなに儲けていようが、彼らのやっていることは対象とやり方を変えた搾取に他ならず、イカサマでしかない。

それを自覚していようが無自覚でいようが、その恩恵を受けている時点で我々も共犯者なのだ。

そんなことは十分に承知のつもりだったのだが、この見事なドラマの中で完璧に描かれると、唖然としつつ感動する他ない。
虚偽とペテンに満ちた現代社会の中で、どうやって愛する家族と家庭が破壊されて行くのか。
発展という虚構のために、人間が人間らしく生きられず、物か虫けらのように扱われている。
フィクションでこそ描かれる現実は残酷ながら、脚本も演技も演出も素晴らしくただただ面白い。

原題の「Sorry we missed you」は宅配便の不在連絡票に書かれている決まり文句で「ご不在でした」という意味のようだが、この映画においては「家族がバラバラになって寂しい」という意味も掛けられている。

デリバリー、アマゾン、コンビニ、チェーン店などに少しでも関わったことがある全ての人に見て欲しい。
いま僕らは間違った方向に進んでいる。
家族こそが何より一番大事なんだと、人間らしい暮らしを取り戻す必要があるのだと気付かせてくれる傑作。
posted by 井川広太郎 at 19:05| Comment(0) | REVIEW | 更新情報をチェックする

2019年12月01日

HHH:侯孝賢

オリヴィエアサイヤスが撮った侯孝賢のドキュメンタリー「HHH:侯孝賢」@東京フィルメックス
制作されたのは20年も前だが、侯孝賢ファンでアサイヤスも好きだったのに初めて見た
香港や台湾の現在に繋がる話も多く、興味深い
恋々風塵のロケ地である十分は今のような超人気観光地になる前のようで、この頃に行きたかったな
好きなものを優しく見つめる甘い映画、やはりエドワードヤンの不在が寂しい
posted by 井川広太郎 at 18:42| Comment(0) | lost in blog | 更新情報をチェックする