2015年02月08日

フォックスキャッチャー

フォックスキャッチャー』(英題FOXCATCHER/2014/アメリカ/2時間15分/配給ロングライド)



監督:ベネット・ミラー
製作:ミーガン・エリソン、ベネット・ミラー、ジョン・キリク、アンソニー・ブレグマン
出演:スティーブ・カレル、チャニング・テイタム、マーク・ラファロ、バネッサ・レッドグレーブ、シエナ・ミラー

公式サイト http://www.foxcatcher-movie.jp/
2015年2月14日(土)新宿ピカデリーほか、全国公開


第67回カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞し、第87回アカデミー賞にて全5部門でノミネート。
大富豪の御曹司が金メダリストを殺したという実際の事件を映画化したサスペンス。

文句無しに今年一番。まだ2015年始まったばかりだけど、おそらく、12月になっても、これがグンバツに面白いと思う。というか、経験則から言うと、こんな面白い映画にはそうそう出会えない。
もし、年内にこれより面白い映画を観られたら、それこそ事件なので、そんな事件ならむしろ大歓迎である。

冒頭、チャニング・テイタムが独りでレスリングを練習し、一切の台詞もなく、ただただバスン、バスンとマットを叩く乾いた音だけが道場に響くシーンで、一気に引き込まれる。
なにもなく、絶望的に空虚だが、しかし、見えないどこかで、とんでもない何かが蠢いている予感が張りつめている。

台詞はひたすら排除し、カメラは小細工せず、音は極限までシンプルにと演出は徹底していて、とにかく、あらゆる要素を引いていく。
まるで鍛え上げられた日本刀のように、ストイックなまでに削ぎ落されたからこそ到達する精悍さが漲っている。
それだけに、被写体である俳優の顔と肉体、そして演技だけがむき出しになっている。

アメリカで一番モテる男チャニング・テイタム、そして40歳の童貞男スティーブ・カレル、それぞれ鬼気迫る演技で、正直、最初、誰だか分からなかった。
事件の当事者本人が演じているんじゃないかとすら錯覚させ、あちゃー、こりゃ、映っちゃいけない人が映ってるわー、というヤバさが2時間15分持続する。

生気ほとばしる肉体を上下させて荒い息を吐き出し、上目遣いで睨むチャニング・テイタムの深い瞳の奥には、乾きと飢えゆえに我を失う野生の獣の愚かさと気高さが潜んでいる。
半分口を開けて、うつろな瞳で見えない何かを捉え続けようとするスティーブ・カレルの横顔は、狂気と理性の境界線をなぞり続け、耳には決して届かない高周波を発し続けているようだ。
色っぽく不気味に、そして魅惑と誘惑を目一杯孕んだ、こんなに素晴らしい演技をする俳優陣に嫉妬を禁じ得ない。

事実は小説より奇なりという。確かにそうだ。だが、映画が現実よりもリアルな瞬間はある。この作品に漲る緊張感と真実味はどうだ。
実際の事件を映画化しているので、ネタバレもクソもなく、話は最初から分かっているわけだが、先の見えない恐怖感、足下が揺らぎ消えるてしまうような不安感、そして俳優の顔と肉体に宿る底知れぬ何かが極上のサスペンスを味わわせてくれる。

あまりにも濃厚で、かつ清らかで、その上で神秘的であるがゆえに、単純な理解と安直な結論を断固として拒否し続ける強さと弱さが共存する静謐なその画面は、悶絶するほど魅力的であり、いわば、ハラハラと、ドキドキと、ワクワクがシャワーのごとく止めどなく、流星群のごとく輝かしく、洪水のごとく溢れんばかりにオンパレードしている。
ただ、それらが一切、可視化されておらず、無音で、つまりは暗闇の眩さと沈黙の饒舌さをこれでもかというばかりに堪能させてくれる傑作なのである。
posted by 井川広太郎 at 11:30| Comment(0) | TrackBack(0) | REVIEW | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック