2016年03月04日

木靴の樹

『木靴の樹』(原題L'albero degli Zoccoli/1978年、日本初公開1979年4月28日/イタリア/配給ザジフィルムズ/187分)



監督エルマンノ・オルミ

公式サイト http://www.zaziefilms.com/kigutsu/
3月26日(土)より 岩波ホールほか全国順次公開


19世紀末のイタリア北部の農村で、貧しい小作人として暮らす四家族を描く。

時々、このままずっとこの映画を観ていたいと思うことがある。
侯孝賢の『悲情城市』や、ジョン・フォードの『わが谷は緑なりき』とかジャン・ルノアールの『フレンチ・カンカン』とかがそうだが、この作品を観ている時もまた、心の底からそう思った。

派手な物語は特になく、地主に搾取され、寒さに震え、豚を解体し、トマトを栽培し、酒を飲み交わし、子が生まれ、学校に行き、洗濯物を預かり、恋をするというように、四家族の生活を淡々と描いている。

それが、どうしようもなく面白い。
上映開始直前にこの映画が3時間オーバーと知り、2時間超の映画すら鑑賞意欲がわかない僕としてはかなりモチベーションが低かったのだが、見始めたら虜になって、どうかこの映画がずっとずっと終わらないでくれと願っていた。

映像にはドキュメンタリーのような生々しさと、フィクションならではの瑞々しさと、いや、どんなドキュメンタリーでもフィクションでも目にしたことがないような、どうしようもない力強さがみなぎっている。
どうやったら、あんなに美しい映像が撮れるのか、僕には全く想像もつかないが、でも、そんなことはどうでもいい、とてつもなく甘美な時間に、ただただ酔いしれていたい。

人生を感じさせる映画ではなく、本当に人生そのもののような映画というのがこの世にはあって、映画を観たというよりも、まるで映画の世界で自分自身が生きていたようにすら感じる。

僕が生まれて間もなくの頃に作られた映画で、そもそも遥か昔を描いていて、イタリアの農村になど行ったこともないのに、どうしようもない郷愁というか、懐かしさというか、心地よさというか、実感やぬくもりを感じずにはいられない。

確かに彼らの暮らしは貧しく厳しいのだけれど、しかしまるで理想郷かパラダイスのようにすら見える。
なぜなのか、それは原風景的な何かなのか、彼らの喜怒哀楽に満ちた日々と、家族の強い結びつきと、隣人との深い交流と、自然と共生がそう思わせるのだろうか。

とにかく、べらぼうに面白かった。
観たのは先月だが、いまだに興奮さめやらぬ。
僕らは映画の続きを生きている。
posted by 井川広太郎 at 18:33| Comment(0) | TrackBack(0) | REVIEW | 更新情報をチェックする
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