2017年05月18日

皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ

『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』(原題 Lo chiamavano Jeeg Robot/2015年/イタリア/配給 ザジフィルムズ/119分)



監督:ガブリエーレ・マイネッティ
製作:ガブリエーレ・マイネッティ
出演:クラウディオ・サンタマリア、ルカ・マリネッリ、イレニア・パストレッリ

公式サイト http://www.zaziefilms.com/jeegmovie/
2017年5月、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館他全国


日本のTVアニメ「鋼鉄ジーグ」を下敷きに、偶然にも超人的な力を手に入れたチンピラが、私利私欲ではなく正義のためにその力を使うに至る葛藤をシリアスに描く、クライムムービー調のイタリア版スーパーヒーロー映画

超面白かった!
タイトルがそうであるように、この映画は日本のTVアニメ「鋼鉄ジーグ」を下敷きにしている。
日本のロボットアニメを現代イタリアで実写化なんて、それだけで胸熱!だが、実際、どんな作品なのか観るまでは想像もつかなかった。
これは「アニメの実写映画化」なのか、それともオマージュを捧げていると言うべきなのか、うまく説明はできないが、もし原作となったアニメに自我があるのなら感動のあまりむせび泣いているであろう、これだけ幸福な実写映画化はない。

永井豪が参加していた「鋼鉄ジーグ」は、日本では埋もれてしまった過去のアニメの一つに過ぎないが、イタリアでは放送された当時から熱烈な人気で、いまも絶大な知名度を誇っているとか。
それの「実写化」をとんでもない方法で実現した監督の愛情と熱量がこの作品の素晴らしさの源泉であることは明らかだ。

現代のイタリアで、マフィアの陰でコソコソと小さな犯罪をしているチンピラが主人公。
窃盗も殺人も当たり前なマフィアは組織内でもゴタゴタを繰り返し、その周りをウロチョロしながらおこぼれを拾うようにしてなんとか日々の糧を得ている主人公は、犬以下の扱いを受けている。
人の命は腕時計よりも安く、愛情も夢も希望もない殺伐とした犯罪者たちの最低で下衆な日々が延々と描かれる。

それがイタリアならではのコントラストの強い映像と話法でなんとも印象的に描かれ、見ているだけで胸がえぐられるように辛い。
自分が過去に犯した罪や罰や怒りや悲しみといった負の感情を掘り起こされるようで、忘れてしまった痛みや記憶が蘇り心がジクジクしてメッチャ胸糞悪い。

そんなある日、主人公のチンピラが偶然、超人的な力を得る。
するとどうだろう、めちゃめちゃパワーがあるし、怪我してもすぐ治るし、なにこれ超すごい!
そうしたら、やることは当然、レッツ犯罪行為!
ATMをコンクリートの壁をぶっ壊して丸ごと盗み出し、現金輸送車を一人で襲って金を得る。
ちょっと待て!確かにスーパーパワーを得て直ぐに世のため人のためなんて胡散臭いが、かといって絶賛犯罪行為って幾ら何でもクズすぎて…その力をもうちょいマシなことに使えないのか!

だが彼には家族も友人も仲間もおらず、言葉を交わす相手すらいない。
ただただその日暮らしで、獣のように日々の糧を得るために生きてきたのだから、当然っちゃ当然の行動である。
だから彼は、ありあまる金を得ても飯を食う事ぐらいしかやる事がなく、後はポルノビデオを見ながら好きなヨーグルトにありつけば大満足なのである。

だが、あまりにも傍若無人な彼の犯罪行為は目立ち、話題になり、その結果、マフィアたちのパワーバランスも崩れていく。
そのゴタゴタの中で、庇護者を失った女が主人公の家に転がり込んでくるのだが、この女がまるで「ベティ・ブルー」のベアトリス・ダル。
とんでもなく美人なのに知性は子供のような白痴気味で、無防備にひけらかされる豊満な肉体がエロティックであり、どうしようもなく感情的なメンヘラがゆえに男たるもの惹かれずにはいられない。
とはいえ人付き合いが苦手な主人公は嫌々保護するのだが、そんな彼女がなんと古いアニメ「鋼鉄ジーグ」の大ファンで、いつもDVDを見ている。
そして彼女にとっては命の恩人でありヒーローである主人公を、勝手に「鋼鉄ジーグ」に重ねていき、正義のために戦うんだと囁く。
どうやったらこの女をヤレるのかしか考えていない主人公はそんな言葉には耳を貸さないのだが、そんな彼らも否応なくマフィアの抗争に巻き込まれていく…

「子供向けのアニメ」が何を描き、何を残すことができるのか、その答えの一つがここには描かれている。
子供のような純粋な心だからこそストレートに受け止め、そして強く魂に残る。
子供の頃に好きだったアニメの歌を大人になってからも覚えている、誰もがそんな経験はあるだろう。
それが何を意味するのか、そこから何を生み出すべきなのか、この映画はその理想を描いている。

だが甘っちょろさはかけらもなく、イタリアのダークな犯罪映画の中に描くという発想が秀逸である。
自分ことしか考えていないほんまもんの犯罪者が、愛を知り、人のために力を使おうと心変わりしていく描写が素晴らしい。
正義として描かれた正義には正義はないが、悪の中から生まれた正義には純粋な正義を感じる。
ヒースレジャー版ジョーカーへのオマージュもあるのでクリストファー・ノーランの「ダークナイト」も意識しているわけだが、個人的にはダークナイトより遥かに好きだなあ。

クライマックス、ハリウッドメソッド的になっていく中で、どうしても陳腐に退屈になってしまう。それは仕方ない。
それは仕方ないが、さらにその先、ラストのラストに「鋼鉄ジーグ」愛を炸裂させて、スカッとさせてくれる。
その発想はなかった!そうか、そうだったのか!
原作への強い愛があればこそ、ここまで出来るんだぜ!と、高らかに雄叫びをあげてみせる情けない中年男の背中に拍手喝采。
ロボットアニメの実写映画化の金字塔である。
posted by 井川広太郎 at 16:29| Comment(0) | TrackBack(0) | REVIEW | 更新情報をチェックする
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