2018年04月17日

ラブレス

「ラブレス」というタイトルなのだから傑作であることは分かり切っていたのだけれど、その期待を遥かに上回る凄まじい映画だった。
離婚協議中の夫婦の元から息子が失踪するというシンプルな物語を、重厚なフィックスと見事な移動撮影で不穏なほど力強く描いていく。

冒頭の深い森からパンして市街が見えた瞬間に全ての予感がざわめき、トイレで息子が泣いているカットでもう琴線を鷲掴みにされる。
家庭に居場所がない幼子、これ以上の哀しみがあるのだろうか。罪人よ!

全ての人物が不確かな幸福を渇望するあまり、目の前の他者には無関心という矛盾に無自覚な、歪んだ楽園。
暖かな部屋のガラス一枚向こうは寒々とした荒野で、その幻想は壁紙一枚剥がすことで廃墟に等しい実像を露わにし、非力な彼らは自力では川さえ渡ることもできず、バリケードを立てて自分を守ろうとしても血を拭い去ることはできない。
小さな箱庭を寄せ集めて築いたバベルの塔には有形無形の境界線が張り巡らされ、人と人との距離は隔たるばかりなのだ。

スマホやSNSそしてRUSSIAと全編に散りばめられたシニカルなジョークも決して大げさとは思えない。
この寓話を誰が無視できよう。
事実、少年の鮮やかな印しは人知れず朽ちていき、いまも世界は静かに引き裂かれているのだ。

神の子はもう地上から失われたのか。
向こう側には何があるのか、それが映画だ。

posted by 井川広太郎 at 08:37| Comment(0) | lost in blog | 更新情報をチェックする
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