2019年06月30日

ワイルドライフ

『ワイルドライフ』(原題 Wildlife/2018年/アメリカ/配給 キノフィルムズ/105分)



監督 ポール・ダノ
製作 アンドリュー・ダンカン、アレックス・サックス、ポール・ダノ、オーレン・ムーバーマン、アン・ロアク、ジェイク・ギレンホール、リバ・マーカー
出演 キャリー・マリガン、ジェイク・ギレンホール、エド・オクセンボールド、ビル・キャンプ

公式サイト http://wildlife-movie.jp/
7月5日(金)YEBISU GARDEN CINEMA、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー


1960年代のアメリカ、大規模な山火事に苛まれるモンタナ州を舞台に、生活苦から心が離れていく両親の姿を見つめる少年の葛藤を描くドラマ

現時点で圧倒的に今年のベスト。

定職に就けない父親は一念発起し山火事の消火作業員を志願して去り、取り残された母親は寂しさと生活苦の中でパート先で知り合った金持ちの男と親しくなっていき、一人息子は自分の居場所である家庭を守りたいと思いつつ力のない己を恥じて生き方を模索する。

観ていて、侯孝賢やカサヴェテスが脳裏をよぎった。
ポール・ダノ初監督にして圧倒的な才能であった。

冒頭の、父子がアメフトの練習をする長回しでそれは予感される。
タッチダウンの瞬間が木に隠れるという絶妙、そうタッチダウンは映っていないのだが、我々は否応なくそれを想像してしまう。
その後の食事のシーン、家族のつながりと違和感と、彼らが共存する場所といった様々が周到に込められていて決定的だ。
それからはもう脱帽、めくるめく映画の世界にどっぷりと浸かった。

ゆっくりと家族が崩壊していく、静かに音を立て僅かながらしかし確かに。
それは判を押すような単純なことではなく、いろんな葛藤、迷い、事情、溢れんばかりのエモーションがある。
その情景を繊細を丁寧に、そして大胆かつ克明に、なんとも美しく切り取っていく。

母が不倫に陥ちる瞬間、その迷いと喜び、救済と罪悪感、背徳感と恋をするかけがいのないときめきといった矛盾する様々な感情が入り乱れるその時間を、長い長いシークエンスが描いていく。

とにかく俳優が素晴らしい。
妻であり母であり女であるキャリー・マリガン、父であり夫であり男であるジェイク・ギレンホール、主演の名優二人が深い人間性を伴った複雑な人物の魅力を見事に表現している。
感動的に最高だ。

俳優部と演出部は表裏一体であると、いつも思っている。
共同作業である映画の現場において、俳優部と演出部は共犯関係だ。
だから名優が名監督、あるいは名監督が名優とは限らないが、その可能性は比較的に高いと思う。
リチャード・リンクレイターの「ファーストフード・ネイション」で初めてポール・ダノをすげえ役者だと認識したが、それが素晴らしい監督でもあるとこの映画で確信した。

夫と妻の微妙な距離、その躊躇いがちに漂うささやかな空間に、語り尽くせぬ物語が広がっていることを僕らは感じることができる。
そして、それを見つめる眼差し、あまりに完璧なラストカットは映画の神様の祝福なのだろうか。
posted by 井川広太郎 at 18:11| Comment(0) | REVIEW | 更新情報をチェックする
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