2019年07月27日

熱帯魚

『熱帯魚』(英題 Tropical Fish/1995年/台湾/配給 オリオフィルムズ、竹書房/日本初公開 1997年4月5日/108分)



監督 チェン・ユーシュン
製作総指揮 ワン・トン
出演 リン・ジャーホン、シー・チンルン、リン・チェンシン、ウェン・イン

公式サイト https://nettai-gogo.com/
2019年8月17日より新宿K's cinema他、全国順次ロードショー


高校受験を目前に誘拐された少年が、犯人一家と交流するうちに大人へと成長していく様を描くコメディ

初公開時に観て以来、つまり20年ぶりに観たのだが、紛うことない傑作であった。
加熱する受験戦争、都会への一極集中、拝金主義などといった台湾の社会問題を背景としながら、 ポップでキャッチーに、おかしなおかしな誘拐事件を描く。

実際、この頃の台湾では誘拐事件が多く重大な社会問題になっていたらしいのだが、描かれる事件は深刻さよりも滑稽さが圧倒している。
上手に誘拐も出来ないドジで間抜けな犯人たちは、悪人ではあっても悪意はない。
す巻きにされた少年たちに箸で食べ物を与える犯人の姿は、まるでヒナに餌を与える親鳥のようでもあり、なんとも愛らしく微笑ましい。

台北で誘拐された少年は、犯人の故郷である田舎に連れて行かれ、そこでしばらく過ごすことになる。
核家族化が進み学歴偏重で功利的な都会とは違い、田舎では親類縁者やご近所さんとの家族的な結びつきが残っている。
喧嘩しながらも食事の時は皆そろって食卓を囲むという繋がりの中で、少年もその一員として、つまりは一人の人間として扱われる。
殺伐とした受験戦争や冷たい家族に疲れていた少年は、あらぬ場所に迷い込むことでモラトリアムという不思議の特権を得るのだが、そこはまるで異世界かパラダイスのような居心地の良さがある。
だがしかし、そこで暮らす人々とて挫折や痛みや哀しみを隠し持っていることを知り、少年は自身も責任を負う覚悟を決める。

スパルタな教師がなぜか首にコルセット巻いていたり、田舎町では堰が決壊したとかで家の中まで水浸し、警察官が犯人の元同僚であったりと、シュールな世界観を築く独特のタッチが素晴らしい。
リアルとファンタジーとの境界線を自由奔放に行き来し、愉しく型破りな演出が隅々まで施され、独特のフォルムで映画的な面白味に溢れている。

そして主役は紛れもなく少年でありながら主人公を固定せず様々な登場人物やエピソードに自在に切り替わっていく巧みな話法は、主観と客観を同時に揺さぶられるようでテーマにもグッと即していて、青春の一筋縄ではいかない心理や複雑な感情を見事に表している。
思春期の美しも切ない哀しみを捉えつつも圧倒的なイマジネーションで映画を締めくくるラストは圧巻で、侯孝賢の「恋々風塵」や相米慎二の「台風クラブ」などを彷彿とさせる青春映画の金字塔だ。
posted by 井川広太郎 at 10:16| Comment(0) | REVIEW | 更新情報をチェックする
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