2019年12月02日

家族を想うとき

「家族を想うとき」(2019年製作/100分/G/イギリス・フランス・ベルギー合作/原題:Sorry We Missed You/配給:ロングライド)



監督:ケン・ローチ
製作:レベッカ・オブライエン
製作総指揮:パスカル・コーシュトゥー グレゴリア・ソーラ バンサン・マラバル
出演:クリス・ヒッチェン、デビー・ハニーウッド、リス・ストーン、ケイティ・プロクター

公式サイト https://longride.jp/kazoku/
12/13(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかにて全国順次公開


宅配ドライバーに就業した父が過酷な労働とパワハラに苛まれ、家庭が崩壊して行く様を描くドラマ

実は最近のケンローチの作品はあまり見ていなかった。
ケスとかレディバードレディバードとか本当に好きで、学生時代には見まくって直筆サインも貰ったケンローチだが、ここのところはなんか離れていた。
そんなわけで久しぶりに見たケンローチなのだが、相変わらず弱者に暖かくも冷静で鋭い眼差しを向ける社会派の作品で、とにかく面白くて最高だった。

仕事を転々としてきた父が一念発起し、宅配ドライバーの仕事を得る。
だが個人事業主とは名ばかりに過酷な労働と厳しい契約を押し付けられ、家で過ごす時間を失い、心に余裕がなくなって行く。
介護サービスの仕事をする妻も、低賃金で長時間労働で公私の切り替えも出来ないハードな日々。
そんな家庭環境もあって高校生の息子は反抗し、幼い娘は家族の仲違いに感情的になっていく。
すれ違いが大きくなっていき、それぞれが孤立して行くが、それでも彼らは必死に家族の絆を取り戻そうとするのだが…

我々が享受している便利さや豊かさが一体何を犠牲にして成り立っているのかをつまびらかにしていく。
安いとか早いとか楽だとかいった看板を掲げるサービスの裏で、わずかな賃金のために人間がもっとも大切にすべき家族や家庭を代償にしている人たちが実際にいる。

そんな欺瞞を成り立たせている一因が、個人事業主だとかフランチャイズというの名を借りた新たな奴隷制度。
劣悪な労働環境によって成り立っているサービス、超低賃金の工場労働者によって作られる商品、そして彼らを縛る契約。
立派な起業家だとか経営者だというのなら、まずは従業員や労働者や契約先に十分な対価を与えてからにして欲しい。
どんなに華やかでどんなに儲けていようが、彼らのやっていることは対象とやり方を変えた搾取に他ならず、イカサマでしかない。

それを自覚していようが無自覚でいようが、その恩恵を受けている時点で我々も共犯者なのだ。

そんなことは十分に承知のつもりだったのだが、この見事なドラマの中で完璧に描かれると、唖然としつつ感動する他ない。
虚偽とペテンに満ちた現代社会の中で、どうやって愛する家族と家庭が破壊されて行くのか。
発展という虚構のために、人間が人間らしく生きられず、物か虫けらのように扱われている。
フィクションでこそ描かれる現実は残酷ながら、脚本も演技も演出も素晴らしくただただ面白い。

原題の「Sorry we missed you」は宅配便の不在連絡票に書かれている決まり文句で「ご不在でした」という意味のようだが、この映画においては「家族がバラバラになって寂しい」という意味も掛けられている。

デリバリー、アマゾン、コンビニ、チェーン店などに少しでも関わったことがある全ての人に見て欲しい。
いま僕らは間違った方向に進んでいる。
家族こそが何より一番大事なんだと、人間らしい暮らしを取り戻す必要があるのだと気付かせてくれる傑作。
posted by 井川広太郎 at 19:05| Comment(0) | REVIEW | 更新情報をチェックする
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