2019年12月27日

ある女優の不在

「ある女優の不在」(2018年製作/100分/イラン/原題:3 Faces/配給:キノフィルムズ)



監督 ジャファル・パナヒ
製作 ジャファル・パナヒ
出演 ベーナーズ・ジャファリ、ジャファル・パナヒ、マルズィエ・レザイ、ナルゲス・デララム

公式サイト http://3faces.jp/
2019年12月13日ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国にて順次公開


見知らぬ少女の自殺動画を送りつけられた女優が、その真相を探るために映画監督と旅するロードムービー

今年観た映画の中でベスト。
イラン映画こそが世界最高峰であると再び知らせしめた歴史的傑作。

冒頭の自殺動画、その縦画面が持つ同時代性と独特の緊張感から途絶えることなく、女優と映画監督との奇妙な旅が始まる。

発端となった少女が自殺する様子を捉えた動画の真偽、その動画の中で女優が名指しされた意図、その女優はなぜ監督と共にいるのか、そもそも彼らはどこへ向かっているのか。

ドキュメンタリーなのかフィクションなのか、曖昧なままその境界線上を疾走する女優と映画監督を、本人達が自ら演じている。
これはまるでキアロスタミの「クローズアップ」。
謎が謎を呼ぶミステリーであり、同時に映画そのものが謎だらけというメタ構造を持っていて、メタクソ面白い。メタ構造だけに。

彼らが乗る車は、超大国イランの北西部、辺境に等しい地域に入っていく。
近代都市テヘランとは違い、ペルシャ語も通じず、異国のような世界。

大国家の片隅に、因習に縛られ、時代に取り残されたような人々がいる。
そこを彷徨っているうちに、二人の行程は時間旅行の様相を帯びてくる。

この映画の持つメタ構造からして自然な流れで真実と虚構との境界とは何か、演じるとは何か、俳優とは何かという問いが浮かんでくる。
そこを起点にイラン映画の歴史を遡り始め、その中でイラン革命をリアルに感じ、ついにはイランの壮大な歴史の旅へと誘われていく。

そして女優は、二人の別の女優の存在を知る。
歴史の波の中に消えてしまった女優と、遥かな未来に現れる女優。
原題の「3 Faces」は彼女たち三人の顔のことであり、これは同時にイランの現在、過去、未来を表している。
決してパナヒのおっさんのトボけた顔のことではない。つーかパナヒ監督、おみそれしました。すごい。すごい。

映画を見ていたはずの僕らも、いつの間にか女優と映画監督と共に旅をしていたのだ。
彼らの車に一緒に乗って、不思議な旅をしていた。

遥か遠くの乾いた大地に、これほど豊穣な営みがあると、いつか誰かが教えてくれた。
あの丘の先に、”ジグザク道”の向こう側が垣間見える。
キアロスタミの不在を超えて、光よりもまだ速く、映画はまた新たな地平を描いた。追い求めて。最高だ。
posted by 井川広太郎 at 17:47| Comment(0) | REVIEW | 更新情報をチェックする
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