2020年03月21日

デッド・ドント・ダイ

「デッド・ドント・ダイ」(2019年製作/104分/R15+/スウェーデン・アメリカ合作/原題:The Dead Don't Die/配給:ロングライド)



監督:ジム・ジャームッシュ
製作:ジョシュア・アストラカン カーター・ローガン
製作総指揮:ノリオ・ハタノ フレデリック・W・グリーン
出演:ビル・マーレイ、アダム・ドライバー、ティルダ・スウィントン、クロエ・セヴィニー、スティーヴ・ブシェミ、ダニー・グローヴァー、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ 、ロージー・ペレス、イギー・ポップ、サラ・ドライヴァ、RZA、キャロル・ケイン、セレーナ・ゴメス、トム・ウェイツ、オースティン・バトラー、エスター・バリント

公式サイト https://longride.jp/the-dead-dont-die/
2020年4月3日(金)より、TOHO シネマズ 日比谷ほかにて全国公開


アメリカの田舎町でゾンビが発生する一夜を描く

映画なんて面白ければ何でもいいので突き詰めれば好みだと思う
実際、僕の知り合いの編集者はこの作品を「傑作だ」と言ってた
それを聞いて安心して僕は僕の感想を正直に言える
めちゃくちゃツマラなかった

興奮したのはビル・マーレイとアダム・ドライバーが並び立つ冒頭と、セレーナ・ゴメスを雑に扱うとこだけだった
それ以外は全編を通して「パターソン」の退屈さに、お寒いギャグを加えた感じ

かつてジャームッシュはヒーローであった、世界中の多くの人が熱狂していた
だがどうだろう、最近のジャームッシュの映画は既に死んでいるにも関わらず、その自覚もなく街をうろついているしかばねのようだ
辛くて、悲しくて、悔しくて、背筋が凍りつく恐ろしさ、その意味でこの映画は紛れもなくホラーだった
posted by 井川広太郎 at 15:57| Comment(0) | REVIEW | 更新情報をチェックする

2020年03月19日

ようこそ、革命シネマへ

「ようこそ、革命シネマへ」(2019年製作/97分/G/フランス・スーダン・ドイツ・チャド・カタール合作/原題:Talking About Trees/配給:アニモプロデュース)



監督 スハイブ・ガスメルバリ
製作 マリー・バルドゥッキ

公式サイト http://animoproduce.co.jp/yokosokakumei/
4.4(土)ユーロスペースほか全国順次公開


映画文化が凋落したスーダンで映画館の復活のために奔走する老人たちの姿を描くドキュメンタリー

ほぼ全編を通して、かつての映画人たる老人たちが集まってお茶したり、楽しそうに小さな上映会を催したり、「革命シネマ」という映画館を再興するために活動したりする姿がのんびりと描かれる。
終盤に差し掛かってようやく軍事独裁政権の影響で映画館の運営が禁じられていることがはっきりと提示される。
のだが、その「絶望」から先、どうやって老人たちが「希望」を見出していくのかをもっと見たかった。

また老人の一人がかつてロシアの映画学校で創ったという作品が一瞬映るのだが、それがとんでもなく面白そうなので、もっと長く見せて欲しかった。
posted by 井川広太郎 at 00:27| Comment(0) | REVIEW | 更新情報をチェックする

2020年03月15日

CURED キュアード

「CURED キュアード」(2017年製作/95分/アイルランド・フランス合作/原題:The Cured/配給:キノフィルムズ)



監督 デビッド・フレイン
製作 ロリー・ダンガン、エレン・ペイジ
出演 エレン・ペイジ、サム・キーリー、サム・キーリー、トム・ボーン=ローラー

2020年3月20日ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開
公式サイト http://cured-movie.jp/


感染すると凶暴化するウィルスのパンデミック後、回復した人たちが苛まれ続ける差別と不安を描くゾンビ映画

なかなか面白かった
ウィルスの蔓延なんてとってもタイムリーだと思って見たのだが、ジャンル映画でありながら排他的になっていく社会の現状を描き、家族の物語としてまとまっている
あと、怖いシーンがちゃんと怖い

低予算で初監督作品らしく、無茶なとこもよく分からないところもあるんだけど熱量ある力強い映画
主演しているエレンペイジが良いなあと思っていたら、エンドロールで彼女がプロデュースも兼ねていたことを知る、胸熱
posted by 井川広太郎 at 22:46| Comment(0) | REVIEW | 更新情報をチェックする

2019年12月28日

アニエス・ヴァルダをもっと知るための3本の映画

特集上映「アニエス・ヴァルダをもっと知るための3本の映画」

『アニエスによるヴァルダ』監督:アニエス・ヴァルダ|製作:ロザリー・ヴァルダ|2019年/フランス/119分

*劇場初公開『ラ・ポワント・クールト』監督・脚本:アニエス・ヴァルダ|編集:アラン・レネ|出演:フィリップ・ノワレ、シルヴィア・モンフォール|1954年/フランス/80分

*劇場初公開『ダゲール街の人々』監督:アニエス・ヴァルダ|撮影:ウィリアム・ルプシャンスキー、ヌーリス・アヴィヴ|1975年/フランス/79分



2019年12月21日(土)より、シアター・イメージフォーラム他全国順次ロードショー
公式サイト:http://www.zaziefilms.com/agnesvarda/


映画史上最も偉大な女性監督の一人であるアニエス・ヴァルダの新作一本と初公開の映画二本からなる特集。

こないだもどこかで女性監督による映画ランキングとかいう変なものがあって、しかしアニエス・ヴァルダがベスト10に数本入っていることには素直に納得。

傑作「アニエスの浜辺」で自身の人生と作品を総括したと思ったが、新作『アニエスによるヴァルダ』ではゲストとの講演を通じながら作品作りの技法を紐解いていく。

劇場初公開の『ラ・ポワント・クールト』は、ゴダールの「勝手にしやがれ」より5年、トリュフォーの「大人は判ってくれない」よりも4年も前に作られ、ヌーヴェルヴァーグの起源とも呼ばれている作品とのこと。
海辺の町で心がすれ違っていく夫婦をロケーションを生かしながら描いていて、なるほど当然ながらヌーヴェルヴァーグ的である。

そしてこちらも劇場初公開の『ダゲール街の人々』は下町の商店で働く人々を捉えたドキュメンタリーで、とんでもなく面白い。
市井の人々の日常の営みをただただ映しているだけなのに、なぜこれほどまでに面白いのか。
それはひとえにカメラを構える側の姿勢(と被写体との距離感)にあると思うのだが、いずれにしろみずみずしい映像に興奮がさめやらない傑作。

最近ようやく女性映画監督がたくさん出てくるようになったけど、まだまだ足りない。
映画業界の各部署で女性の割合は上がってきたが、僕は特に女性プロデューサーに増えて欲しい。
それこそが日本映画の可能性を飛躍的に大きくする秘策だとすら思っている。
posted by 井川広太郎 at 09:20| Comment(0) | REVIEW | 更新情報をチェックする

2019年12月27日

ある女優の不在

「ある女優の不在」(2018年製作/100分/イラン/原題:3 Faces/配給:キノフィルムズ)



監督 ジャファル・パナヒ
製作 ジャファル・パナヒ
出演 ベーナーズ・ジャファリ、ジャファル・パナヒ、マルズィエ・レザイ、ナルゲス・デララム

公式サイト http://3faces.jp/
2019年12月13日ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国にて順次公開


見知らぬ少女の自殺動画を送りつけられた女優が、その真相を探るために映画監督と旅するロードムービー

今年観た映画の中でベスト。
イラン映画こそが世界最高峰であると再び知らせしめた歴史的傑作。

冒頭の自殺動画、その縦画面が持つ同時代性と独特の緊張感から途絶えることなく、女優と映画監督との奇妙な旅が始まる。

発端となった少女が自殺する様子を捉えた動画の真偽、その動画の中で女優が名指しされた意図、その女優はなぜ監督と共にいるのか、そもそも彼らはどこへ向かっているのか。

ドキュメンタリーなのかフィクションなのか、曖昧なままその境界線上を疾走する女優と映画監督を、本人達が自ら演じている。
これはまるでキアロスタミの「クローズアップ」。
謎が謎を呼ぶミステリーであり、同時に映画そのものが謎だらけというメタ構造を持っていて、メタクソ面白い。メタ構造だけに。

彼らが乗る車は、超大国イランの北西部、辺境に等しい地域に入っていく。
近代都市テヘランとは違い、ペルシャ語も通じず、異国のような世界。

大国家の片隅に、因習に縛られ、時代に取り残されたような人々がいる。
そこを彷徨っているうちに、二人の行程は時間旅行の様相を帯びてくる。

この映画の持つメタ構造からして自然な流れで真実と虚構との境界とは何か、演じるとは何か、俳優とは何かという問いが浮かんでくる。
そこを起点にイラン映画の歴史を遡り始め、その中でイラン革命をリアルに感じ、ついにはイランの壮大な歴史の旅へと誘われていく。

そして女優は、二人の別の女優の存在を知る。
歴史の波の中に消えてしまった女優と、遥かな未来に現れる女優。
原題の「3 Faces」は彼女たち三人の顔のことであり、これは同時にイランの現在、過去、未来を表している。
決してパナヒのおっさんのトボけた顔のことではない。つーかパナヒ監督、おみそれしました。すごい。すごい。

映画を見ていたはずの僕らも、いつの間にか女優と映画監督と共に旅をしていたのだ。
彼らの車に一緒に乗って、不思議な旅をしていた。

遥か遠くの乾いた大地に、これほど豊穣な営みがあると、いつか誰かが教えてくれた。
あの丘の先に、”ジグザク道”の向こう側が垣間見える。
キアロスタミの不在を超えて、光よりもまだ速く、映画はまた新たな地平を描いた。追い求めて。最高だ。
posted by 井川広太郎 at 17:47| Comment(0) | REVIEW | 更新情報をチェックする

2019年12月02日

家族を想うとき

「家族を想うとき」(2019年製作/100分/G/イギリス・フランス・ベルギー合作/原題:Sorry We Missed You/配給:ロングライド)



監督:ケン・ローチ
製作:レベッカ・オブライエン
製作総指揮:パスカル・コーシュトゥー グレゴリア・ソーラ バンサン・マラバル
出演:クリス・ヒッチェン、デビー・ハニーウッド、リス・ストーン、ケイティ・プロクター

公式サイト https://longride.jp/kazoku/
12/13(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかにて全国順次公開


宅配ドライバーに就業した父が過酷な労働とパワハラに苛まれ、家庭が崩壊して行く様を描くドラマ

実は最近のケンローチの作品はあまり見ていなかった。
ケスとかレディバードレディバードとか本当に好きで、学生時代には見まくって直筆サインも貰ったケンローチだが、ここのところはなんか離れていた。
そんなわけで久しぶりに見たケンローチなのだが、相変わらず弱者に暖かくも冷静で鋭い眼差しを向ける社会派の作品で、とにかく面白くて最高だった。

仕事を転々としてきた父が一念発起し、宅配ドライバーの仕事を得る。
だが個人事業主とは名ばかりに過酷な労働と厳しい契約を押し付けられ、家で過ごす時間を失い、心に余裕がなくなって行く。
介護サービスの仕事をする妻も、低賃金で長時間労働で公私の切り替えも出来ないハードな日々。
そんな家庭環境もあって高校生の息子は反抗し、幼い娘は家族の仲違いに感情的になっていく。
すれ違いが大きくなっていき、それぞれが孤立して行くが、それでも彼らは必死に家族の絆を取り戻そうとするのだが…

我々が享受している便利さや豊かさが一体何を犠牲にして成り立っているのかをつまびらかにしていく。
安いとか早いとか楽だとかいった看板を掲げるサービスの裏で、わずかな賃金のために人間がもっとも大切にすべき家族や家庭を代償にしている人たちが実際にいる。

そんな欺瞞を成り立たせている一因が、個人事業主だとかフランチャイズというの名を借りた新たな奴隷制度。
劣悪な労働環境によって成り立っているサービス、超低賃金の工場労働者によって作られる商品、そして彼らを縛る契約。
立派な起業家だとか経営者だというのなら、まずは従業員や労働者や契約先に十分な対価を与えてからにして欲しい。
どんなに華やかでどんなに儲けていようが、彼らのやっていることは対象とやり方を変えた搾取に他ならず、イカサマでしかない。

それを自覚していようが無自覚でいようが、その恩恵を受けている時点で我々も共犯者なのだ。

そんなことは十分に承知のつもりだったのだが、この見事なドラマの中で完璧に描かれると、唖然としつつ感動する他ない。
虚偽とペテンに満ちた現代社会の中で、どうやって愛する家族と家庭が破壊されて行くのか。
発展という虚構のために、人間が人間らしく生きられず、物か虫けらのように扱われている。
フィクションでこそ描かれる現実は残酷ながら、脚本も演技も演出も素晴らしくただただ面白い。

原題の「Sorry we missed you」は宅配便の不在連絡票に書かれている決まり文句で「ご不在でした」という意味のようだが、この映画においては「家族がバラバラになって寂しい」という意味も掛けられている。

デリバリー、アマゾン、コンビニ、チェーン店などに少しでも関わったことがある全ての人に見て欲しい。
いま僕らは間違った方向に進んでいる。
家族こそが何より一番大事なんだと、人間らしい暮らしを取り戻す必要があるのだと気付かせてくれる傑作。
posted by 井川広太郎 at 19:05| Comment(0) | REVIEW | 更新情報をチェックする

2019年11月15日

ゴーストマスター

「ゴーストマスター」(2019年/90分/日本/配給:S・D・P)



監督:ヤング・ポール
脚本:楠野一郎
出演:三浦貴大、成海璃子、板垣瑞生、永尾まりや、原嶋元久、寺中寿之、篠原信一、川瀬陽太、柴本幸、森下能幸、手塚とおる、麿赤兒

12月6日(金)新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー
公式サイト http://ghostmaster.jp/


青春キラキラ映画の撮影現場で、呪われたホラー映画の脚本が暴走し惨劇を巻き起こすホラーコメディ

”呪われたホラー映画の脚本が暴走し惨劇を巻き起こす”って読み返してもぶっ飛んでるが、かなり正確に書けていると思う
ホラー映画を中心にあまたの映画へオマージュを捧げていて、ホラー映画をあまりよく知らない僕には少し難解だったけど、ホラーファンならきっと楽しめると思う

撮影現場への愛情もたっぷりで”低予算映画あるある”にもなっているのだが、素直に笑えるところもある反面、ブラックな業界の実態を垣間見るようで身につまされるところも
個性的な俳優たちがクセの強い役をそれぞれ見せ場たっぷりに演じているのが痛快で、中でも録音部を演じる柴本幸さんは素晴らしく印象的!
posted by 井川広太郎 at 20:08| Comment(0) | REVIEW | 更新情報をチェックする

2019年11月12日

盲目のメロディ〜インド式殺人狂騒曲〜

「盲目のメロディ インド式殺人狂騒曲」(2018年製作/138分/インド/原題:Andhadhun/配給:SPACEBOX)



監督:シュリラーム・ラガバン
出演:アーユシュマーン・クラーナー、タブー、ラーディカー・アープテー

公式サイト http://m-melody.jp/
2019年11月15日より全国順次ロードショー


自称盲目のピアニストが、殺人現場を目撃してしまうことから巻き起こる騒動を描く

前半は滑稽かつ軽妙で笑えるのだが、だんだんと深刻かつ陰鬱になっていく
独善的で利己的な人々が憎しみあって傷つけ合う展開がこれでもかと続き、コメディというよりスリラー
貧富の差とか拝金主義とか公職の不正とか臓器売買とか、社会の暗部を意図的に描いているようにも見て取れる

インド映画だけどあんまり歌ったり踊ったりしないので、逆に新鮮かも
posted by 井川広太郎 at 10:20| Comment(0) | REVIEW | 更新情報をチェックする

2019年10月09日

人生、ただいま修行中

「人生、ただいま修行中」(2018年/105分/フランス原題:De chaque instant/配給:ロングライド)



監督:ニコラ・フィリベール
製作:ドゥニ・フロイド

公式サイト https://longride.jp/tadaima/
11/1(金)新宿武蔵野館ほか全国順次公開


フランスの看護学校で学ぶ生徒たちの姿を捉えたドキュメンタリー。

講義や実習の様子、そして講師との面談などを長回しで淡々と描いていく。
お馴染みの医療器具を真剣に操作し、時には失敗し、友と笑いながら学んでいく姿は、世界中の看護学校で繰り広げられているものと同じであろう。
だが多民族化していくフランスならではの多様性もあり、講師との面談では一人一人の複雑な思いや葛藤が語られる。

仕事で医療系の映像を撮ったこともあるし、看護学校を舞台にしたドラマに関わったこともあるが、同じような絵を見たことあるなあと懐かしく感じた。
これはもう看護学生の皆さんはこぞって見る奴なんだろうなと。
posted by 井川広太郎 at 12:10| Comment(0) | REVIEW | 更新情報をチェックする

2019年10月06日

ゾンビ-日本初公開復元版-

『ゾンビ-日本初公開復元版-』(1979/原題:Dawn of the Dead/製作国:アメリカイタリア/上映時間:115分/配給:ザジフィルムズ)



監督:ジョージ・A・ロメロ
監修:ダリオ・アルジェント
製作:クラウディオ・アルジェント、アルフレッド・クオモ、リチャード・P・ルビンスタイン

公式サイト https://www.zombie-40th.com/
11/29(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開!


ホラー映画の金字塔「ゾンビ」の日本公開40執念、もとい40周年記念で制作された「日本初公開復元版」。
ホラーが苦手な僕は、実のところ「ゾンビ」はこれが初見。

死んだ人間が蘇って“ゾンビ”という化け物となり生きている人々を襲うというパニックムービー。
うん、構造的にはこれパニックムービーだと思うんだが、これがゾンビというホラー映画の一ジャンルを決定づける作品となった、で合ってるのだろうか。
そんな誰もが知ってる伝説の映画「ゾンビ」には編集の違う複数のバージョンがあるらしく、今回上映されるのは「日本初公開時に配給会社が勝手に改変したバージョン」の復刻版という曰く付きの一品。

その最大の特徴は、冒頭に謎の惑星の爆発でゾンビが発生するようになったというトンデモ映像と説明文が追加されていること、スプラッターな残酷シーンはストップモーションなどの映像処理が施されていること、さらにエンドロールがカットされていることだという。
字幕も当時のものを可能な限り再現したらしいのだが、誤訳もあって分かりにくく、とにかくヒドイ。

ハッキリ言って、この『ゾンビ-日本初公開復元版-』は珍品すぎる。
これはもうゾンビマニアのゾンビマニアによるゾンビマニアのための映画と断定して差し支えなかろう。
寝た子を起こすなと言うが、すまんが屍体を墓から掘り起こすようなことは止めてくれ。
素人が迂闊に手を出すと怪我してしまうし、その傷からうっかり感染してしまうかもしれないから要注意。

しかしゾンビが巣食うショッピングモール、次第にゾンビ化していく仲間、歩けない人を乗せる台車などなど、最近のゾンビ映画にまで引き継がれている要素がこの作品でほぼ出尽くしているという事実に衝撃を隠せない。
とまあ、こんな不勉強ぶりを晒すと多くの人にお叱りを受けるんだろうけど仕方ない。ホラー好きじゃないんだもの。

ちなみにこの『ゾンビ-日本初公開復元版-』は上映プリントが残っていなかったので、現存する中で最も近いというテレビ放送版を再編集して「復元」したのだという。
実物がないので片っ端から資料に当たってこんな感じだったのではないかと推測し、関係者たちの記憶をたどり、果てはゾンビマニアの方々の話を聞いて回って完成させたのだという。
唖然とするしかない。いまも幾つものバージョンが残っているというのに、わざわざ時代に埋もれた日本初公開時のものを大変な苦労を重ねて復元させたのだ。まさに朽ちても何度でも蘇るゾンビマニアたちの執念の結晶。
そんな狂気のプロジェクトを指揮したのは一体どこの誰なのか、その制作過程を追ったドキュメンタリーがもしあるのなら、そちらの方を僕は見たい。
posted by 井川広太郎 at 11:41| Comment(0) | REVIEW | 更新情報をチェックする

2019年09月29日

テルアビブ・オン・ファイア

『テルアビブ・オン・ファイア』(2018年製作/97分/ルクセンブルク・フランス・イスラエル・ベルギー合作/原題:Tel Aviv on Fire/配給:アットエンタテインメント)



監督:サメフ・ゾアビ
製作:ミレナ・ポワヨ、ジル・サクト、アミール・ハレル、バーナード・ミショー
出演:カイス・ナシェフ、ルブナ・アザバル、ヤニブ・ビトン

11/12(金)新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷他全国順次公開
http://www.at-e.co.jp/film/telavivonfire/ 


パレスチナの超人気メロドラマの脚本家が、親交があるイスラエル人から内容に口出しされ困惑する姿を描く

最近も「エンテベ空港の7日間」という実際にあったテロ事件を描いた映画を観たばかりだし、そうでなくとも殺伐とした入植やら政争といった報道を日々目の当たりにしている我々外国人からすると、イスラエルにもパレスチナにも関心は尽きない。

だからこそ監督作「東京失格」がエルサレム国際映画祭で上映された時は、とても奇妙な感じがしたし現地に行きたかったのだがそれは残念ながら叶わなかった。
そんな我々に持ってこいなのがヴェネツィア国際映画祭で作品賞を受賞など世界中で評価されているという本作「テルアビブ・オン・ファイア」である。

この映画の中ではイスラエルとパレスチナを行き来して生活する人々の様子が描かれ、庶民の暮らしや価値観、そして彼らがそれぞれの国をどう見ているのか、僕らが知らないリアルの一端が垣間見えてきてとても興味深い。
皮肉が絶妙に利いたタイトルの通り脚本は完全にコメディ仕立てなのだが、しかし演出はあまりそうはなってはおらず、個人的には観ていてどうも居心地が悪かった。

主演の男、どっかで見たことあるなあと思っていたら、自爆テロを行おうとするパレスチナ人青年を描いた「パラダイス・ナウ」の主役だった。
とんでもなく振り幅が大きい役柄を演じているだけに、見比べると尚更オモロイかも。
posted by 井川広太郎 at 18:19| Comment(0) | REVIEW | 更新情報をチェックする

2019年09月20日

トスカーナの幸せレシピ

『トスカーナの幸せレシピ』(原題 Quanto basta/2018年/イタリア/配給 ハーク/92分)



監督 フランチェスコ・ファラスキ
製作 ファビアノ・グラーネ、ダニエレ・マッツォッカ
製作総指揮 アンドレア・ボレッラ
出演 ビニーチョ・マルキオーニ、バレリア・ソラリーノ、ルイジ・フェデーレ、ベネデッタ・ポルカローリ、ジャンフランコ・ガッロ、アレッサンドロ・ヘイベル

公式サイト http://hark3.com/toscana/
10月11日(金)より東京・YEBISU GARDENCINEMAほかにて全国順次公開


挫折した天才料理人が、アスペルガー症候群の青年に料理を教えることで再生していく姿を描く

古今東西、料理にまつわる映画は数多いが、特に欧州ではレストランのシェフが主人公の作品が多い気がする
天才だが問題があるというキャラクターが多く、リーダーとしての孤独や葛藤に始まり、共同作業の中で仲間の存在に助けられる様が描かれる

ブラッドリー・クーパーの「二ツ星の料理人」とかジャンレノの「シェフ!〜三ツ星レストランの舞台裏へようこそ〜」とかドキュメンタリーだが「ノーマ、世界を変える料理」とか記憶に新しい
いかにも花形職業なんだろうが、この映画もその系譜に入る、のかなあ

お馴染みのTVショー「料理対決」がクライマックスなんだが、なぜか「師匠にアドバイスを聞ける」というお助けルールがある
プロット上どうしてもこのレギュレーションを作りたかったのは分かるのだが、せっかくの新人料理人コンテストなのにとなんだかモヤモヤした
あと、登場する女子たちがみんなキレイ
posted by 井川広太郎 at 11:55| Comment(0) | REVIEW | 更新情報をチェックする

2019年08月21日

エンテベ空港の7日間

『エンテベ空港の7日間』(原題 7 Days in Entebbe/2018年/イギリス・アメリカ合作/配給 キノフィルムズ/107分)



監督 ジョゼ・パジーリャ
製作 ティム・ビーバン、エリック・フェルナー、ケイト・ソロモン、マイケル・ライト
出演 ダニエル・ブリュール、ロザムンド・パイク、エディ・マーサン、リオル・アシュケナージ、ドゥニ・メノーシェ、ベン・シュネッツァー

公式サイト http://entebbe.jp/
10/4(金)より、TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開!!


実際に起きたハイジャック事件とその人質救出作戦を描くサスペンス

1976年、テルアビブ発パリ行きのエールフランス機を乗っ取った犯人が服役中の親パレスチナ過激派テロリストの解放を要求するが、イスラエル政府は犯人グループが立てこもるウガンダのエンテベ国際空港での人質救出作戦を決行する、という実際に起きた事件の4度目の映画化という。

過去の三本は事件直後に制作されたが、四十余年後に撮られた本作は詳細な研究や取材を基にした史劇であり、多角的に描く群像劇であって、主人公はドイツ人テロリスト。
英雄的な物語ではあるが単なるアクション映画やヒーロー映画ではなく、登場人物一人一人に深い人物造形が施されたリアルでシリアスなドラマになっている。

極限状態の中で理想と現実が入り乱れ仲間と対立し犯行の是非を問い続けるテロリストと、事件が引き金になって政治闘争化していくイスラエル政府を主軸に、長い拘束期間で人間性がむき出しになっていく人質たちや、あまりにも大胆な作戦に困惑を隠せないイスラエル軍兵士など、それぞれの立場で、それぞれの思いや葛藤が丁寧に描かれていく。

しかし事実を積み上げる展開はテンポよく、助長になることも無く、美しく素晴らしいショットの連続で、叙情と緊張感とが両立した素晴らしい演出で手に汗握る面白さ。

様々な国の人が登場するのでドイツ人同士はドイツ語で、フランス人同士はフランス語でなど、きっちり使用言語を分けているのだが、なぜかメイン舞台であるイスラエル政府はヘブライ語ではなく英語で会話しているのが奇妙だった。

劇中の要所でコンテンポラリーダンスが挿入されるのだが、それがとても効いている。
コンテンポラリーダンスを使用する映画はあっても無理矢理感が強かったり、残念な感じだったりすることが多い。
だが、この作品では大胆な起用ながら見事に融合し、むしろそのコンテンポラリーダンスがあるからこそ映画として完成したのではないかとすら思う。
豪快な音楽で煽りに煽ってから踊る、たまらん。
posted by 井川広太郎 at 13:52| Comment(0) | REVIEW | 更新情報をチェックする

2019年08月19日

タロウのバカ

『タロウのバカ』(2019年/日本/配給 東京テアトル/119分)



監督 大森立嗣
出演 YOSHI、菅田将暉、太賀、奥野瑛太、植田紗々、豊田エリー、國村隼

公式サイト http://www.taro-baka.jp/
9/6(金)テアトル新宿ほか全国ロードショー


東京のどん底で生きる少年たちが偶然、銃を手にしたことから暴走していく様を描く

資本主義では生産性が高いことが全てという偏った価値観によって、半グレ、援助交際、学歴偏重、違法行為、育児放棄、そして弱者を救済するどころかおとしめる思想や行為の数々など、現代の日本が生み出し続ける病巣を痛烈にえぐり出していく。

舞台を東京の外れ、川沿いの首都高の下辺りという絶妙な位置に設定したことが見事に効いている。

天からの恵みも全てが遮られ、光も届かぬ暗がりで生きる逞しさは、この国の希望なのか絶望なのか。
posted by 井川広太郎 at 15:04| Comment(0) | REVIEW | 更新情報をチェックする

2019年07月30日

ラブゴーゴー

『ラブゴーゴー』(原題 愛情来了 Love Go Go/1997年/台湾/配給 オリオフィルムズ、竹書房/日本初公開 1998年12月12日/113分)



監督 チェン・ユーシュン
製作 シュー・リーコン
出演 タン・ナ、シー・イーナン、リャオ・ホェイチェン、チェン・ジンシン

公式サイト https://nettai-gogo.com/
新宿K's cinema他、全国順次ロードショー


台北を舞台に切ない恋をする人々をオムニバス形式で描くコメディ

冴えないパン職人が、店の常連客の美女が幼なじみであると気づき、子供の頃にし損ねた告白をしようとする。
おデブな女の子が偶然拾ったポケベルの持ち主と電話で話しただけで恋に落ち、デートするためにダイエットを決意する。
美女が経営する床屋に、不倫相手の妻が乗り込んで来るが、そこに偶然、護身具のセールスマンが居合わせる。
といった大枠三つのエピソードがありながら、それぞれの登場人物が重複し繋がっていて、連作のようでもありながら全体で一つの物語を構成している。

パン屋のエピソードとおデブな女の子のエピソードが素晴らしい。
脚本も秀逸で、衣装や美術といったアイテムや色彩設計、全てがキレッキレなのだが、やはり何より登場人物の魅力に尽きる。

太っていてブサイクでいつもカツラを気にしている陰気なパン職人、そしてデブでいながらメッチャ明るく元気で勝気ながらシャイな一面もある女の子。
この二人が台北の街を傍若無人に駆け回り、歌い踊る姿が圧倒的に愉快なのだが、しかも二人ともズブの素人で、本作が演技初挑戦だというのだから驚かされる。

パン屋のエピソードでは美女は脇役なのでもっと映してくれ!とすら思うのだが、床屋のエピソードで実際に彼女が主役になるとなぜか物足りない。
彼女は事実うっとりするほど美しいのだが、先行する冴えないパン職人とおデブな女の子、この二人のインパクトが凄まじいのだ。
イケメンと美女の恋愛など退屈、やはり映画においては個性的なルックスこそが武器になる。

日本初公開時に観て以来、つまり20年ぶりに観たのだが古臭いどころか新鮮さすら感じ、問答無用に面白かった。
抱腹絶倒のコメディであると同時に、侯孝賢やエドワードヤンといった台湾ニューウェーブの流れを受け継ぎ、当時の台湾の景色、台北という街を記録するという映画的な役割を見事に果たしている。
posted by 井川広太郎 at 10:25| Comment(0) | REVIEW | 更新情報をチェックする

2019年07月27日

熱帯魚

『熱帯魚』(英題 Tropical Fish/1995年/台湾/配給 オリオフィルムズ、竹書房/日本初公開 1997年4月5日/108分)



監督 チェン・ユーシュン
製作総指揮 ワン・トン
出演 リン・ジャーホン、シー・チンルン、リン・チェンシン、ウェン・イン

公式サイト https://nettai-gogo.com/
2019年8月17日より新宿K's cinema他、全国順次ロードショー


高校受験を目前に誘拐された少年が、犯人一家と交流するうちに大人へと成長していく様を描くコメディ

初公開時に観て以来、つまり20年ぶりに観たのだが、紛うことない傑作であった。
加熱する受験戦争、都会への一極集中、拝金主義などといった台湾の社会問題を背景としながら、 ポップでキャッチーに、おかしなおかしな誘拐事件を描く。

実際、この頃の台湾では誘拐事件が多く重大な社会問題になっていたらしいのだが、描かれる事件は深刻さよりも滑稽さが圧倒している。
上手に誘拐も出来ないドジで間抜けな犯人たちは、悪人ではあっても悪意はない。
す巻きにされた少年たちに箸で食べ物を与える犯人の姿は、まるでヒナに餌を与える親鳥のようでもあり、なんとも愛らしく微笑ましい。

台北で誘拐された少年は、犯人の故郷である田舎に連れて行かれ、そこでしばらく過ごすことになる。
核家族化が進み学歴偏重で功利的な都会とは違い、田舎では親類縁者やご近所さんとの家族的な結びつきが残っている。
喧嘩しながらも食事の時は皆そろって食卓を囲むという繋がりの中で、少年もその一員として、つまりは一人の人間として扱われる。
殺伐とした受験戦争や冷たい家族に疲れていた少年は、あらぬ場所に迷い込むことでモラトリアムという不思議の特権を得るのだが、そこはまるで異世界かパラダイスのような居心地の良さがある。
だがしかし、そこで暮らす人々とて挫折や痛みや哀しみを隠し持っていることを知り、少年は自身も責任を負う覚悟を決める。

スパルタな教師がなぜか首にコルセット巻いていたり、田舎町では堰が決壊したとかで家の中まで水浸し、警察官が犯人の元同僚であったりと、シュールな世界観を築く独特のタッチが素晴らしい。
リアルとファンタジーとの境界線を自由奔放に行き来し、愉しく型破りな演出が隅々まで施され、独特のフォルムで映画的な面白味に溢れている。

そして主役は紛れもなく少年でありながら主人公を固定せず様々な登場人物やエピソードに自在に切り替わっていく巧みな話法は、主観と客観を同時に揺さぶられるようでテーマにもグッと即していて、青春の一筋縄ではいかない心理や複雑な感情を見事に表している。
思春期の美しも切ない哀しみを捉えつつも圧倒的なイマジネーションで映画を締めくくるラストは圧巻で、侯孝賢の「恋々風塵」や相米慎二の「台風クラブ」などを彷彿とさせる青春映画の金字塔だ。
posted by 井川広太郎 at 10:16| Comment(0) | REVIEW | 更新情報をチェックする

2019年06月30日

ワイルドライフ

『ワイルドライフ』(原題 Wildlife/2018年/アメリカ/配給 キノフィルムズ/105分)



監督 ポール・ダノ
製作 アンドリュー・ダンカン、アレックス・サックス、ポール・ダノ、オーレン・ムーバーマン、アン・ロアク、ジェイク・ギレンホール、リバ・マーカー
出演 キャリー・マリガン、ジェイク・ギレンホール、エド・オクセンボールド、ビル・キャンプ

公式サイト http://wildlife-movie.jp/
7月5日(金)YEBISU GARDEN CINEMA、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー


1960年代のアメリカ、大規模な山火事に苛まれるモンタナ州を舞台に、生活苦から心が離れていく両親の姿を見つめる少年の葛藤を描くドラマ

現時点で圧倒的に今年のベスト。

定職に就けない父親は一念発起し山火事の消火作業員を志願して去り、取り残された母親は寂しさと生活苦の中でパート先で知り合った金持ちの男と親しくなっていき、一人息子は自分の居場所である家庭を守りたいと思いつつ力のない己を恥じて生き方を模索する。

観ていて、侯孝賢やカサヴェテスが脳裏をよぎった。
ポール・ダノ初監督にして圧倒的な才能であった。

冒頭の、父子がアメフトの練習をする長回しでそれは予感される。
タッチダウンの瞬間が木に隠れるという絶妙、そうタッチダウンは映っていないのだが、我々は否応なくそれを想像してしまう。
その後の食事のシーン、家族のつながりと違和感と、彼らが共存する場所といった様々が周到に込められていて決定的だ。
それからはもう脱帽、めくるめく映画の世界にどっぷりと浸かった。

ゆっくりと家族が崩壊していく、静かに音を立て僅かながらしかし確かに。
それは判を押すような単純なことではなく、いろんな葛藤、迷い、事情、溢れんばかりのエモーションがある。
その情景を繊細を丁寧に、そして大胆かつ克明に、なんとも美しく切り取っていく。

母が不倫に陥ちる瞬間、その迷いと喜び、救済と罪悪感、背徳感と恋をするかけがいのないときめきといった矛盾する様々な感情が入り乱れるその時間を、長い長いシークエンスが描いていく。

とにかく俳優が素晴らしい。
妻であり母であり女であるキャリー・マリガン、父であり夫であり男であるジェイク・ギレンホール、主演の名優二人が深い人間性を伴った複雑な人物の魅力を見事に表現している。
感動的に最高だ。

俳優部と演出部は表裏一体であると、いつも思っている。
共同作業である映画の現場において、俳優部と演出部は共犯関係だ。
だから名優が名監督、あるいは名監督が名優とは限らないが、その可能性は比較的に高いと思う。
リチャード・リンクレイターの「ファーストフード・ネイション」で初めてポール・ダノをすげえ役者だと認識したが、それが素晴らしい監督でもあるとこの映画で確信した。

夫と妻の微妙な距離、その躊躇いがちに漂うささやかな空間に、語り尽くせぬ物語が広がっていることを僕らは感じることができる。
そして、それを見つめる眼差し、あまりに完璧なラストカットは映画の神様の祝福なのだろうか。
posted by 井川広太郎 at 18:11| Comment(0) | REVIEW | 更新情報をチェックする

2019年06月20日

さらば愛しきアウトロー

『さらば愛しきアウトロー』(原題 The Old Man & the Gun/2018年/アメリカ/配給 ロングライド/93分)



監督 デビッド・ロウリー
出演 ロバート・レッドフォード、ケイシー・アフレック、ダニー・グローバー、チカ・サンプター、トム・ウェイツ

公式サイト https://longride.jp/saraba/
2019年7月12日(金)全国公開


決して傷つけないことをポリシーに愉しみとして銀行強盗と脱獄を繰り返した老人の実話を元に描く

映画史上屈指のスターであるロバート・レッドフォードが「引退作品」として自ら製作し、ダニー・グローバー、トム・ウェイツ、シシー・スペイセクら往年の名俳優達が共演。
ロバート・レッドフォードが主催するサンダンス映画祭で見出されたデヴィッド・ロウリーが監督。
Show must go onなメッセージは感じつつ、ロバート・レッドフォードの「引退作品」があくまで甘くマイルドなコメディ調というのは驚きもあった。
やはり「明日に向かって撃て」のイメージが強いのか、あるいは監督の好みなのかもと思ったが、デヴィッド・ロウリーの過去作「セインツ -約束の果て-」もシリアスに犯罪者を描く映画であるらしくて意外。
「セインツ -約束の果て-」はデヴィッド・ロウリーの盟友である「ア・ゴースト・ストーリー」のコンビ、ケイシー・アフレックとルーニー・マーラが主演。
あいにく「さらば愛しきアウトロー」にはルーニー・マーラは出ていないが、「ア・ゴースト・ストーリー」が好きな人は是非!
posted by 井川広太郎 at 23:36| Comment(0) | REVIEW | 更新情報をチェックする

2019年05月30日

北の果ての小さな村で

『北の果ての小さな村で』(原題 Une annee polaire/2018年/フランス/配給 ザジフィルムズ/94分)




監督 サミュエル・コラルデ
製作 グレゴワール・ドゥバイ
出演 アンダース・ビーデゴー、アサー・ボアセン

公式サイト http://www.zaziefilms.com/kitanomura/
7月シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー


グリーンランドの小さな村に教師として派遣されたデンマーク人の若者が、現地の人と心を通わせていくさまを描く

ドキュメンタリー映画なのだろうと思って観はじめたら、ドラマだったので驚いた
いやしかし、ドラマのようでありながら確かにドキュメンタリーでもある
実際は、ドキュメンタリーとドラマの垣根を超えた独特の作風とのこと

一年間に渡って取材を続け、ドキュメンタリーはドラマのように撮り、ドラマはドキュメンタリーのように撮るという基本を忠実に行った成果らしい
とはいっても、どうしたってドキュメンタリーとドラマの境目が分かってしまうものだが、この作品では驚くほど違和感がない

その結果、登場人物たちが何とも活き活きとしている
喜怒哀楽リアルな表情が溢れていて見飽きず、カメラなど意識しない自然な立ち振る舞いに見とれてしまう
彼らはどんな俳優たちよりも魅力的で、きっと多くの俳優たちはこの映画に嫉妬する

ドキュメンタリーと勘違いしたのは、試写状に写っていたデンマーク人の若者と現地の少年のツーショットが、あまりにナチュラルであったからだ
それを見て、これは芝居ではないと思い込み、きっとドキュメンタリーなのだろうと錯覚したのだ

登場人物たちのありなままの姿が現地の生活を包み隠さず伝え、過酷でありながらとんでもなく美しい自然環境に圧倒される
人間が共生する様々な生き物の生と死が描かれ、命のありがたさと高貴さに心打たれる

パラダイスとして描きすぎているという指摘もあるだろうし、デンマークとの関係や、それと共に若干語られるグリーンランドの経済的な問題点なども、もっと掘り下げてもいいのかもしれない
だが、見た目は大人ながら中身は幼いデンマーク人の若者の成長物語として秀逸であるし、彼の都会的な脆さに対し、現地の少年の無邪気な逞しさはまさに対極的であり、そんな二人の言葉の違い、文化の違いを超えて生まれる友情には素直に熱くなる
なんという景色の美しさ!なんという動物たちの愛らしさ!こういう映画を見たかった!
posted by 井川広太郎 at 22:32| Comment(0) | REVIEW | 更新情報をチェックする

2019年04月07日

メモリーズ・オブ・サマー

『メモリーズ・オブ・サマー』(原題 Wspomnienie lata/2016年/ポーランド/配給 マグネタイズ/83分)



監督 アダム・グジンスキ
製作 ウーカッシュ・ジェンチョウ、ピオトル・ジェンチョウ
出演 マックス・ヤスチシェンプスキ、ウルシュラ・グラボフスカ、ロベルト・ビェンツキェビチ

公式サイト http://memories-of-summer-movie.jp/
6月、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次ロードショー


夏休みに大好きな母と二人きりで過ごすことになった少年の成長を描くドラマ

1970年代と思われるポーランドの田舎町。
父が出張し、友人はバカンスに行った夏、少年は大好きな母と二人きりで過ごすことになる。
しかし楽しい時間もつかの間、母はしばしば家を空けるようになり、少年の心は不安と疑念に埋め尽くされていく。
そんな中、少年は、都会から来た少女と知り合うのだが…

優しく美人でセクシーで大好きな母、親であるだけではなく友人であって恋人のようでもあり、甘えたがりの少年はいつも一緒にいる。
だが家族であっても他人なんだという残酷な事実に、思春期の少年は向き合うことになる。
それは楽園で”性”という禁断の木の実を手に入れる悲劇でしかない。

硝子のテーブルに映る顔、隣室が伺える鏡、窓を叩く小石、遮断機と汽車など、徹底的に映画的な境界線が描かれていく。
すっきりとして小綺麗な室内に効果的に配置された家具や衣装や調度品がいちいちオシャレで、劇中で重要な役割を果たしていく。

そんな豪奢な美術と比べると一家が暮らすアパートは妙に狭く、部屋数が少なく見える。
田舎町だし、もう少し広くてもいいのではないかと思ってしまうが、監督の実体験を反映しているというのだから、こういうものなのだろうか。
夫婦の寝室すらなく、母親の寝床がリビングにあるソファーベッドだなんて、まるで「こわれゆく女」じゃないか。
posted by 井川広太郎 at 19:31| Comment(0) | REVIEW | 更新情報をチェックする