2017年06月23日

ローラ

『ローラ』(原題Lola/1960年/フランス/配給 ザジフィルムズ/88分)



監督:ジャック・ドゥミ
製作:ジョルジュ・ド・ボールガール、カルロ・ポンティ
出演:ジャック・アルダン、アヌーク・エーメ、マルク・ミシェル、コリンヌ・マルシャン

特集上映『ドゥミとヴァルダ、幸福についての5つの物語』
7月22日(土)より、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
公式サイト http://www.zaziefilms.com/demy-varda/


港町で初恋の人を想い待ち続ける踊り子ローラを巡る恋模様を描く

その晩はフランスの映画監督と飲んで、僕はやっぱりドゥミが好きなんだ「ローラ」が好きなんだという話しをしていた。
で、酔って千鳥足で家に帰ったら「ローラ」の試写状が届いていたんだ!
こんなことってあるか?
嬉しくて思わず叫び、この嬉しい巡り合わせをすぐさまその監督に伝えた。

そして待ちわびた試写の日、初恋の人に再会するようなウキウキした気持ちで会場に駆けつけた。
いつもはしかめっ面のおじさま達も、なんだかこの日ばかりはみんなニコニコしていたのは僕の勘違いなんかではないはずだ。
みんな浮かれてる、久々の上陸でキャバレーを訪れた水兵達みたいだ。

僕は「ララランド」は観ていないけれど「ローラ」を下敷きにしているのは知っている。
全てのミュージカル映画にとって「ローラ」は幼い頃の憧れの想い人であるのに違いないからだ。
「ララランド」で映画やミュージカルに興味を持った人たちが「ローラ」を観てくれることを切に願う。
僕もいつか「ララランド」を観るのを楽しみにしている。

てへぺろ案件だが、僕の監督作「キミサラズ」も「ローラ」からめちゃめちゃ影響を受けている。
公開中にある人からそのことを指摘されて、すごく嬉しかった!

実際、「ローラ」は初めて観た学生の時から何一つ変わらない眩さなのに、何度観ても全てが新鮮!
ヌーベルバーグの真珠、心の中の宝石。美しいとはこういうことだ。
posted by 井川広太郎 at 10:39| Comment(0) | TrackBack(0) | REVIEW | 更新情報をチェックする

2017年06月16日

『丸』(2014年/日本/配給 マグネタイズ/89分)



監督:鈴木洋平
プロデューサー:池田将、今村左悶
出演:飯田芳、池田将、木原勝利

公式サイト http://www.yoheisuzuki.com/maru.html
7月8日(土)よりシアター・イメージフォーラムにて<逆輸入>ロードショー!!


とある民家の中に謎の球体が出現したことから巻き起こる不可思議な出来事を描く不条理劇

映画にはいろんな表現や可能性があるにも関わらず、昨今の映画館で観られる映画ときたら、どれも似たようなものばかりだ。
ハッキリ言うと、いま映画館で興行しているほとんどの映画は”ハリウッド映画”の真似事でしかない。

ハリウッド映画がよくできていることには疑う余地はないが、映画にはもっと色んな面白さがある。
音楽で例えるならロックだけではなく、雅楽も、クラシックも、民族音楽もあるように。
好みは人それぞれだからこそ多様性が損なわれると脆く弱くなるし、なにより、似たような映画ばかり観ていて楽しいか?正直、僕は飽きた。退屈だ。

「丸」を鑑賞中、ぶっちゃけ僕の趣味には合わず、素直には乗れなかった。
だが、どうだろう、観賞後に振り返ってみると、稀有な映画体験をしたという充実感がある。
あんな映画は今まで観たことないし、似たような映画が思いつかない。
独特な映画だからこそ、各国の映画祭で絶賛されたというのも頷ける。
万人に受けるかどうかは分からないが、「丸」という映画でしか得られない感覚、感情、感動があるのだ。
映画にはこんな表現もあるのか、こんな可能性もあるのかと、映画を観る楽しみがさらに広がった気がする。

ありふれた日常かと思いきや、ノイズのような音楽の心地よさに惑わされ、紙一重でシュールな世界へと足を踏み入れてしまい、台詞は全て言葉遊びのように分解され形骸化する中で未知の言語のような独特の響きを帯びてゆき、感覚に訴えかける細やかな演出がちりばめられたパラレルワールドは物語の定型を一切受け入れない。

ファーストフード店のように世界中どこでも同じ味が提供できるというシステムは紛れもなく偉大だ。
しかし例えば異国を訪れたのなら、その土地ならではの料理を楽しみたいという人には「丸」をオススメする。
お口に合うかどうかは分からないが、しかしきっと忘れがたき映画体験になるはずだ。
posted by 井川広太郎 at 20:30| Comment(0) | TrackBack(0) | REVIEW | 更新情報をチェックする

2017年06月12日

アリーキャット

『アリーキャット』(2017年/日本/配給アークエンタテインメント/129分)



監督:榊英雄
製作:間宮登良松、川村英己、野田孝寛
出演:窪塚洋介、降谷建志、市川由衣、品川祐、高川裕也、火野正平

2017年7月15日[土]よりテアトル新宿ほか全国ロードショー
公式サイト http://alleycat-movie.com/


窪塚洋介と降谷建志が演じる凸凹コンビが珍道中を繰り広げるバディムービー。
二人のカリスマが出会い手を組むという、ありそうでなかった設定だけでワクワク感を刺激する。
しかも可愛い女子を救うために長閑な片田舎から魔窟と化した東京に向かうという、ファンタジーとリアリティを横断する現代の冒険潭。
特に後半からクライマックスにかけてバイオレンスアクションの様相を呈していくのだが、そっからの演出がキレッキレで手に汗を握ってしまう。
主役の二人に負けじと個性的な登場人物が次から次に登場してきて楽しいのだが、その中でも「キミサラズ」にも出演して頂いた高川裕也さんも柔道をたしなむ政治家役で出演していて、これまた強そうでカッコいい!
posted by 井川広太郎 at 16:12| Comment(0) | TrackBack(0) | REVIEW | 更新情報をチェックする

2017年06月09日

マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白

『マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白』(原題 Madame B., histoire d'une Nord-Coreenne/2016年/韓国・フランス合作/配給 33 BLOCKS/72分)



監督:ユン・ジェホ
製作:ギョーム・デ・ラ・ブウレイ、チャ・ジェクン

公式サイト http://mrsb-movie.com/
6月10日(土)シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開!


中国で「脱北ブローカー」をする女の数奇な運命と愛を描くドキュメンタリー

めちゃめちゃ面白かった!
タイトルにある通り被写体のマダムは当初「脱北ブローカー」をしているのだが、そのインパクトあるフック「脱北ブローカー」でさえ些細なことに思えてくるほど壮絶な、女の生き様を描いている。
極限状態を描いた社会派のドキュメンタリーでありながら、一人の女の愛の物語になっているのが、この映画の魅力だ。

北朝鮮に生まれたマダムは夫と子供達を養うために中国に出稼ぎに来たつもりが、騙されて貧しい農村に売り飛ばされ、そこで中国人の農夫と事実婚状態になる。
しかし貧しさは変わらず、身分証もないため仕事も選べず、生活と仕送りのために脱北ブローカーなどもする。
そんな中、北朝鮮に残した家族が韓国への亡命を計画し、マダム自身も身分証を得るために韓国行きを目指すのだが…

めちゃめちゃ政治的な状況に追い込まれながらも、ただただ家族と共に生きるために、マダムは国々を相手に凄まじい大立ち回りをしてみせる。
苦難や抑圧や障害を乗り越え、信じられないようなタフさでサバイブしていくマダムの姿には、「お前らは生きることの重みを感じているか?」と、檻の中で飼い慣らされた観客たちに訴えかける無言の圧力がある。

そして当初は生き延びることだけを考えているような殺伐としたマダムの表情が、北朝鮮と中国との二つの家族の間で揺れているうちに、次第に女の顔になっていくのが素晴らしい。
国や国同士の争いは簡単には変えられないし変わらないかもしれないが、逞しく生きることで人々の運命は劇的に変えることができる。
そして、その勇気や活力を与えてくれるのは、いつも愛なのだ。
愛に生きる女の顔はやはり美しい。
posted by 井川広太郎 at 10:53| Comment(0) | TrackBack(0) | REVIEW | 更新情報をチェックする

2017年05月23日

十年

『十年』(十年 Ten Years/2015年/香港/配給スノーフレイク/108分)



プロデューサー:アンドリュー・チョイ、ン・ガーリョン
監督:クォック・ジョン、ウォン・フェイパン、ジェボンズ・アウ、キウィ・チョウ、ン・ガーリョン

公式サイト http://www.tenyears-movie.com/
2017年7月22日(土)よりK's cinemaほか全国順次公開


この映画が作られた時から十年後の2025年の香港を描くオムニバス映画

ストレートに政治を風刺する五本の短編が並ぶ。
近未来の香港として描かれたディストピアは『華氏451』や『メトロポリス』『未来世紀ブラジル』などを彷彿とさせ、まるで日本のことのようにも感じられ面白い。

もうちょっとエンタメした方が多くの人に受け入れられるのではないかなどと危惧してしまうが、実際この映画は超低予算のインディペンデント映画ながら口コミで劇場に行列が出来るほど話題になり異例のヒット、香港映画界に絶大なインパクトを与えたのだという。
その刺激的かつ的確に庶民の声を代弁してみせる真摯な姿勢が歓迎されたのであろうか、いずれにしろ観客は常に制作者の先を行っているからこそ、いつも新しい作品に飢えている。
あるいは、それは国家や資本の論理でしか動けないメディアへの不信感の表れなのか。

最近の日本ではインディペンデントでありながらまるでメジャー映画のような作品が多く、大学に行きながらもバイトと就活ばかりしている学生のようだ。
メジャーにはメジャーの良さや役割があるからこそ、インディペンデントにしかできなこともある。
日本でも是非、こういう映画を撮ろうという心意気のあるプロデューサーに出てきて欲しい。
posted by 井川広太郎 at 11:13| Comment(0) | TrackBack(0) | REVIEW | 更新情報をチェックする

2017年05月18日

皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ

『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』(原題 Lo chiamavano Jeeg Robot/2015年/イタリア/配給 ザジフィルムズ/119分)



監督:ガブリエーレ・マイネッティ
製作:ガブリエーレ・マイネッティ
出演:クラウディオ・サンタマリア、ルカ・マリネッリ、イレニア・パストレッリ

公式サイト http://www.zaziefilms.com/jeegmovie/
2017年5月、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館他全国


日本のTVアニメ「鋼鉄ジーグ」を下敷きに、偶然にも超人的な力を手に入れたチンピラが、私利私欲ではなく正義のためにその力を使うに至る葛藤をシリアスに描く、クライムムービー調のイタリア版スーパーヒーロー映画

超面白かった!
タイトルがそうであるように、この映画は日本のTVアニメ「鋼鉄ジーグ」を下敷きにしている。
日本のロボットアニメを現代イタリアで実写化なんて、それだけで胸熱!だが、実際、どんな作品なのか観るまでは想像もつかなかった。
これは「アニメの実写映画化」なのか、それともオマージュを捧げていると言うべきなのか、うまく説明はできないが、もし原作となったアニメに自我があるのなら感動のあまりむせび泣いているであろう、これだけ幸福な実写映画化はない。

永井豪が参加していた「鋼鉄ジーグ」は、日本では埋もれてしまった過去のアニメの一つに過ぎないが、イタリアでは放送された当時から熱烈な人気で、いまも絶大な知名度を誇っているとか。
それの「実写化」をとんでもない方法で実現した監督の愛情と熱量がこの作品の素晴らしさの源泉であることは明らかだ。

現代のイタリアで、マフィアの陰でコソコソと小さな犯罪をしているチンピラが主人公。
窃盗も殺人も当たり前なマフィアは組織内でもゴタゴタを繰り返し、その周りをウロチョロしながらおこぼれを拾うようにしてなんとか日々の糧を得ている主人公は、犬以下の扱いを受けている。
人の命は腕時計よりも安く、愛情も夢も希望もない殺伐とした犯罪者たちの最低で下衆な日々が延々と描かれる。

それがイタリアならではのコントラストの強い映像と話法でなんとも印象的に描かれ、見ているだけで胸がえぐられるように辛い。
自分が過去に犯した罪や罰や怒りや悲しみといった負の感情を掘り起こされるようで、忘れてしまった痛みや記憶が蘇り心がジクジクしてメッチャ胸糞悪い。

そんなある日、主人公のチンピラが偶然、超人的な力を得る。
するとどうだろう、めちゃめちゃパワーがあるし、怪我してもすぐ治るし、なにこれ超すごい!
そうしたら、やることは当然、レッツ犯罪行為!
ATMをコンクリートの壁をぶっ壊して丸ごと盗み出し、現金輸送車を一人で襲って金を得る。
ちょっと待て!確かにスーパーパワーを得て直ぐに世のため人のためなんて胡散臭いが、かといって絶賛犯罪行為って幾ら何でもクズすぎて…その力をもうちょいマシなことに使えないのか!

だが彼には家族も友人も仲間もおらず、言葉を交わす相手すらいない。
ただただその日暮らしで、獣のように日々の糧を得るために生きてきたのだから、当然っちゃ当然の行動である。
だから彼は、ありあまる金を得ても飯を食う事ぐらいしかやる事がなく、後はポルノビデオを見ながら好きなヨーグルトにありつけば大満足なのである。

だが、あまりにも傍若無人な彼の犯罪行為は目立ち、話題になり、その結果、マフィアたちのパワーバランスも崩れていく。
そのゴタゴタの中で、庇護者を失った女が主人公の家に転がり込んでくるのだが、この女がまるで「ベティ・ブルー」のベアトリス・ダル。
とんでもなく美人なのに知性は子供のような白痴気味で、無防備にひけらかされる豊満な肉体がエロティックであり、どうしようもなく感情的なメンヘラがゆえに男たるもの惹かれずにはいられない。
とはいえ人付き合いが苦手な主人公は嫌々保護するのだが、そんな彼女がなんと古いアニメ「鋼鉄ジーグ」の大ファンで、いつもDVDを見ている。
そして彼女にとっては命の恩人でありヒーローである主人公を、勝手に「鋼鉄ジーグ」に重ねていき、正義のために戦うんだと囁く。
どうやったらこの女をヤレるのかしか考えていない主人公はそんな言葉には耳を貸さないのだが、そんな彼らも否応なくマフィアの抗争に巻き込まれていく…

「子供向けのアニメ」が何を描き、何を残すことができるのか、その答えの一つがここには描かれている。
子供のような純粋な心だからこそストレートに受け止め、そして強く魂に残る。
子供の頃に好きだったアニメの歌を大人になってからも覚えている、誰もがそんな経験はあるだろう。
それが何を意味するのか、そこから何を生み出すべきなのか、この映画はその理想を描いている。

だが甘っちょろさはかけらもなく、イタリアのダークな犯罪映画の中に描くという発想が秀逸である。
自分ことしか考えていないほんまもんの犯罪者が、愛を知り、人のために力を使おうと心変わりしていく描写が素晴らしい。
正義として描かれた正義には正義はないが、悪の中から生まれた正義には純粋な正義を感じる。
ヒースレジャー版ジョーカーへのオマージュもあるのでクリストファー・ノーランの「ダークナイト」も意識しているわけだが、個人的にはダークナイトより遥かに好きだなあ。

クライマックス、ハリウッドメソッド的になっていく中で、どうしても陳腐に退屈になってしまう。それは仕方ない。
それは仕方ないが、さらにその先、ラストのラストに「鋼鉄ジーグ」愛を炸裂させて、スカッとさせてくれる。
その発想はなかった!そうか、そうだったのか!
原作への強い愛があればこそ、ここまで出来るんだぜ!と、高らかに雄叫びをあげてみせる情けない中年男の背中に拍手喝采。
ロボットアニメの実写映画化の金字塔である。
posted by 井川広太郎 at 16:29| Comment(0) | TrackBack(0) | REVIEW | 更新情報をチェックする

2017年05月08日

あの日、兄貴が灯した光

『あの日、兄貴が灯した光』(原題 형・My Annoying Brother/2016年/韓国/配給 CJ Entertainment Japan/110分)



監督:クォン・スギョン
出演:チョ・ジョンソク、D.O.、パク・シネ

2017年5月19日(金) TOHOシネマズ新宿ほか全国順次ロードショー!
公式HPhttp://aniki-themovie.jp/


クズなチンピラの兄貴が、失明した元柔道五輪代表の弟の元に転がり込んで来て再起を促す感動ドラマ

「難病もの」ではあるが、恋愛ではなく兄弟愛を描くバディムービー。
弟が叫ぶ「ヒョン」というのが「兄貴」という意味で、それが「형」という原題なんだろうか。

物語もキャラクターも演出も僕の好みではなかったんだけれど、しかし脚本がよくできているせいかクライマックスは普通に泣いた。
うわー、ベタやわーとか思いつつ、涙を堪えることができなかった。

ナンパ指導するシーンとか、失明した男にとっても女の美醜は重要なのかという「ブラインド・マッサージ」的なテーマにもニアミスしていて興味深かった。
それよりも、どんな女も落ちる!っていうそのテクニックを早く教えてくれよ。

弟のイケメンっぷりが素晴らしいし、各キャストがスター然として魅力的。
コメディリリーフの神父役の人がよく分からなかったけど、出落ちのお笑い芸人かなんだろうか。

この作品の上映が、CJエンタテイメントジャパンの最後の業務であるとか。残念。
posted by 井川広太郎 at 16:06| Comment(0) | TrackBack(0) | REVIEW | 更新情報をチェックする

2017年04月11日

僕とカミンスキーの旅

『僕とカミンスキーの旅』(原題 Ich und Kaminski/2015年i/ベルギー・ドイツ合作/配給 ロングライドi/123分)



監督:ボルフガング・ベッカー
製作:ウーベ・ショット、ボルフガング・ベッカー
出演:ダニエル・ブリュール、イェスパー・クリステンセン、アミラ・カサール、ドニ・ラバン、ジェラルディン・チャップリン

公式サイト http://meandkaminski.com/
4月29日(土)YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開!


伝説の盲目の画家と、彼の伝記を書こうとするインチキな青年とが駆け引きしながら旅するうちに、次第に深い友情で結ばれていくロードムービー

マティスやピカソの影響を受けたポップアートの申し子で盲目の画家というのがまたインチキな設定だが、おかげでダリやらウォーホールやら何やら数多くの作品と作家が登場して面白い
この映画自体がポップアートを包括というか脱構築というか、そんな大げさなことではないんだろうけれど、でもやはりインチキな雰囲気がとてもポップアートな映画

ちょっとしか出ないのにドニ・ラバンが猛烈に印象的でカッコよかったり、娘役のアミラ・カサールの唐突に淫靡なシーンにドキドキしたり、でもやっぱりラストのかつて愛した女に会いに行こうという無駄な純愛っぷりが痛烈で良い
ダメだよ!絶対に会っちゃダメなんだ!なあ俺たち約束したろ?

そんなこんなで画面には絵や物が溢れているのだが、とっても美術と衣装が凝っている
幾らかかるんだろうなあ…とっても贅沢!
主人公の青年の彼女が「日本映画好き」らしいのだが、そんな彼女の部屋に貼ってあるのは黒澤明の乱と、あともう一本は影武者だったかな?
とりあえず主人公が暇で一人で見るテレビ番組が「ボブの絵画教室」ってとこで胸熱
posted by 井川広太郎 at 20:28| Comment(0) | TrackBack(0) | REVIEW | 更新情報をチェックする

2017年03月27日

イップマン 継承

『イップマン 継承』(葉問3 Ip Man 3/2015年/中国・香港合作/配給 ギャガ・プラス/105分)



監督:ウィルソン・イップ
製作:レイモンド・ウォン
アクション監督:ユエン・ウーピン
音楽:川井憲次
出演:ドニー・イェン、リン・ホン、マックス・チャン、マイク・タイソン、パトリック・タム

公式サイト http://gaga.ne.jp/ipman3/
4月22日(土)新宿武蔵野館他全国順次公開


ブルース・リーの”師匠”としても名高い伝説の格闘家イップ・マン(葉問)の活躍を描くアクションエンターテイメント。

「香港映画好き」と香港人に言ったら「イップマン観た?」と聞かれるぐらい、いまの香港映画を代表するメジャータイトル。
ドニー・イェンを”本物のアクション・スター”にしたこの超人気シリーズの過去作を僕は観ていないのだが、しかしよく出来ているので本作だけでも十分楽しめる。

『ドラゴン危機一発'97』や『新・ドラゴン危機一発』の頃はブルース・リーの後継者というアングルもキレッキレで、嬉々としてドニー作品を観に行ったのだが不思議なほどパッとしなかった。
いま思えばドニーのアクションはガチすぎて、美意識が強すぎたのかもしれない。
そのせいか、いまだに僕はドニーのベストアクトは主演ではない『HERO』だと思っている。

そんなこんなでいつしか僕自身も香港映画やアクション映画自体をあまり見なくなっていったので、本作で久々にドニー・イェンを見て真っ先に感じたのは「老けたな…」ということであった。
ただ本作でのドニーの柔軟性の高い演技を見ていると、なるほど、近年はハリウッドでの活躍も目覚しいのも頷ける。

というのもドニーが相対するのが並々ならぬ曲者ばかりなのだ。
ブルース・リーになりきるチャン・クォックワン、イケメン超新星なマックス・チャン、そしてなんだかとても久しぶりに見た気がするパトリック・タムなど皆アクが強いキャラばかりで、そしてそして極め付けはやはりマイク・タイソンである。

明らかにスクリーンに映っちゃダメなオーラがこぼれ出てしまっているマイク・タイソンは、いつ耳に噛み付くのかと常にハラハラさせながらも、終始見事な演技を披露している。
そのことに感動しつつも、間合いを詰めるカットのムーブなどはまさに圧巻であり、これに相対するドニーの勇気に感動すらしてしまう。

子供から老人までどころか、ボクシング史上最強の男からそっくりさん俳優までがひとたびカンフーすれば皆同じ土俵に立ち、異種格闘技戦というか闇鍋というか、香港映画と呼ぶほかジャンル分けできないコッテコテのサービス精神の旺盛さには、なんでもアリの奔放な凄みがみなぎっている。

俳優それぞれがスター然とし、香港映画特有の笑いとガチが混在する魅惑的なキメ顔にワクワクせずにいられない。
そしてドニーもやはりアクションしている時の顔がいい、詠春拳の超高速アクションしながらハホフホ言っている顔が抜群にいい。
posted by 井川広太郎 at 10:45| Comment(0) | TrackBack(1) | REVIEW | 更新情報をチェックする

2017年03月12日

たゆたう

『たゆたう』(2016年/日本/モラモラプレス/91分)



監督:山本文
エグゼクティブプロデューサー:山口真人
出演:寺島咲、手塚真生、木下ほうか

公式サイト http://tayutau-movie.com/
新宿 K's cinemaにて2017年4月1日公開


自身の性別について違和感を感じている女が、望まない妊娠をしてしまったルームメイトの女のお腹の中の子を自分が育てると提案するのだが…

女たちのリアルな性と生、セックス観と人生観が生々しい、今時珍しいほど真摯で骨太なドラマ。

二人の女が素晴らしく美しい。
のだが、性的な魅力を醸し出しながらも、彼女たちはどこか乾燥していてサバサバしている。
女性監督ならではの、女たちに寄り添いつつも突き放した、ドライな演出が冴えている。

どっしりと構えたカメラが、時折、不安定な手持ち撮影になって乱れ、見る者の感情を激しく揺さぶる。

荒波でも凪でもなく、しかし緩やかに移ろい揺れ動く不確かさを知った時、僕らは何処に立つ瀬を求め縋ればいいのか。
posted by 井川広太郎 at 19:10| Comment(0) | TrackBack(0) | REVIEW | 更新情報をチェックする

2017年02月05日

セル

「セル」(原題Cell/2016年/アメリカ/配給プレシディオ/98分)



監督:トッド・ウィリアムズ
製作:リチャード・サパースタイン、マイケル・ベナローヤ、ブライアン・ウィッテン
製作総指揮:ジョン・キューザック
出演:ジョン・キューザック、サミュエル・L・ジャクソン、イザベル・ファーマン

公式サイトhttp://cell-movie.jp/
2017年2月17日(金)TOHOシネマズ六本木ヒルズ他、全国ロードショー!


スティーヴン・キングが原作と脚本を担当した、携帯電話によって人々がゾンビ化していくというホラー映画

クソ映画すぎて全ての人に紹介したいクソ映画
つならなすぎて目が離せず、きっといつか面白くなるはずだと信じて最後まで頑張ったのだが、ついにまったく面白くならないどころか、ラストがショッキングなつまらなさで唖然とさせられる

僕は映画が成立する難しさを実感しているし、実際、この世に存在している映画はそれだけで奇跡に等しい
莫大な予算をかけ、多くの人が関わり、長い年月がかかり、様々な苦難を乗り越え完成し、さらにそこから上映にたどり着いたすべての映画を尊敬するし、貴いものだと心から思う
それに映画は結局のところ好みの問題だから僕なんかが良し悪しを語るなんてもってのほか、観たい人が好きな映画を好きなように観ればいいと考えている

だが、この映画はつまらない映画の代表例として映画の教科書に載せて欲しいレベル
さもないとゴールデンラズベリー賞にノミネートされることもなく消えていってしまう
むしろ、こういう珍品が存在していること自体に映画の奥深さを感じるし、ある意味本物のホラー

おいおい、スティーヴン・キングが原作と脚本を担当し、ジョン・キューザックとサミュエル・L・ジャクソンが主演してるんだから、そんなわけないじゃないかとお思いになるでしょう
そんな方にこそ、是非とも、この映画のつまらなさを劇場でご確認して頂きたい
そして、この映画の悪口を言いながら酒を飲み交わしたいもんだが、そろそろ僕の中では記憶が薄れかけているので、「恐怖体験」したい映画ファンは劇場に急げ!
posted by 井川広太郎 at 10:29| Comment(0) | TrackBack(0) | REVIEW | 更新情報をチェックする

2017年01月04日

壊れた心

「壊れた心」(原題 Pusong wazak! Isa na namang kwento ng pag-ibig sa pagitan ng isang kriminal at isang puta/2014年/フィリピン・ドイツ合作/配給 Tokyo New Cinema/73分)



監督/脚本/プロデューサー/作曲/音楽 :ケビン・デ・ラ・クルス
撮影監督 : クリストファー・ドイル
製作:ケビン・デ・ラ・クルス、アチネット・ビラモアー
出演:浅野忠信、ナタリア・アセベド、エレナ・カザン、アンドレ・プエルトラノ、ケヴィン、ヴィム・ナデラ

公式サイト http://tokyonewcinema.com/works/ruined-heart/
2017年1月7日より渋谷ユーロスペースほかにて劇場公開


スラム街に生きる殺し屋と組織の女との逃避行をファンタジックかつ詩的に描く

セリフがあまり無い代わりに、全編で音楽が流れている
映画というよりも、映画館でアルバムを聴いているような感じに近いのかも
バスの中の曲とラストの曲が良く、あと一曲、カッコイイ曲があった気がしたけど、忘れてしまった
あ、思い出した、乱交パーティ?のシーンの曲だ、あれも良かった
三曲とも、もう一回聴きたいなあ
しかしラストの長い不可解なテロップはちょっと萎えた
posted by 井川広太郎 at 14:26| Comment(0) | TrackBack(0) | REVIEW | 更新情報をチェックする

2016年12月08日

ミス・シェパードをお手本に

『ミス・シェパードをお手本に』(原題 The Lady in the Van/2015年/イギリス/配給 ハーク/103分)



監督:ニコラス・ハイトナー
製作:ケビン・ローダー、ニコラス・ハイトナー、ダミアン・ジョーンズ
製作総指揮:クリスティーン・ランガン
出演:マギー・スミス、アレックス・ジェニングス

公式サイト http://www.missshepard.net/
12月10日(土)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー


劇作家と、彼の家の庭に住み着いたホームレスの女性との交流を描くヒューマン・コメディ。
実話を描いたエッセイを元にした舞台の映画化とのこと。
ハリーポッターシリーズでも有名なマギー・スミスが、元気で高貴な謎めいたホームレスのレディを演じている。

子供の頃って必ず近所に謎の人がいて、大抵は老人だったりするが見かけただけで学校で噂話になったり、あるいはすれ違ったり怒鳴られたりすることで盛り上がったり、あの人は何者なんだろうと想像することで未知の大人の世界へと想像力を広げてくれたり。
そういえば中村高寛監督の「ヨコハマメリー」はそんな映画だったね。
時折どこからともなくやってくる寅さんとか謎のテキ屋のおっちゃんとか、そういう異質なものが身近にいることで僕らの小さな世界は成り立っているんだって実感まで行かなくとも、不思議な安心感があった。
それはもう子供にとっては半ば神秘的というか、日本的な解釈で言う所の神的な役割も担っちゃっているんだろうけど、この映画のミス・シェパードも近所の子供を鬼のように追いかけ回すシーンが一回だけあるが、きっとそういった類だったんだろうな、と。
そんな鬼ババアだかゴミババアを家に住まわしちゃうってのがシュールだし、そうすることで都市伝説的な彼女の素性を知っていくという冒険譚が実話ってのだから驚きだが、舞台を映画化したせいか、十数年に及ぶという時間経過はあまり感じなかったな。
posted by 井川広太郎 at 19:32| Comment(0) | TrackBack(0) | REVIEW | 更新情報をチェックする

2016年11月17日

グレート・ミュージアム ハプスブルク家からの招待状

「グレート・ミュージアム ハプスブルク家からの招待状」(Das Grosse Museum/2014年/オーストリア/配給 スターサンズ、ドマ/98分)



監督 ヨハネス・ホルツハウゼン
製作 ヨハネス・ローゼンベルガー

公式サイト http://thegreatmuseum.jp/
2016年11月26日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開!


創立125周年を迎えたウィーン美術史美術館が、大規模な改装工事を経て再オープンするまでの様子を追ったドキュメンタリー。
館内の奥の奥まで入り込み、様々な部署で多くの人々が働く様子が淡々と点描のように描いていく。
中盤でちらっとだけ映る(だけでグッと来る)ブリューゲルの「バベルの塔」が後になって再登場する時、この映画がその絵を意識した構造になっているということにようやく気付き、なるほど!って思った。
美術館の内側に興味がある人にとっては、なかなか見られないような映像が多く楽しめるかも。
個人的には、さらっとだけ出てくる美術館の雇用や組織や人間関係に対して不満を持つ人々をもっと掘り下げて描いて欲しかった。
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2016年11月02日

ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気

「ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気」(Freeheld/2015年/アメリカ/配給 松竹/103分)



監督 ピーター・ソレット
製作 マイケル・シャンバーグ、ステイシー・シェア、シンシア・ウェイド、ジャック・セルビー
出演 ジュリアン・ムーア、エレン・ペイジ、マイケル・シャノン、スティーブ・カレル

公式サイト http://handsoflove.jp/
2016年11月26日(土)より新宿ピカデリー他、全国ロードショー!


まだ同性婚が認められていなかった頃のアメリカで、末期ガンを患った女性警察官が、女性パートナーに遺族年金が下りるように司法を相手に戦ったという実話を元にしたヒューマンドラマ。

いわゆる一つの感動もので、そりゃもう、アウアウ泣いた。
人目もはばからずに泣きに泣いた。
最近、映画見て泣くこと多いなあと思いつつ、だって涙が止まらないのだもの。

2007年のアカデミー賞で短編ドキュメンタリー賞を受賞した実話を劇映画化したものだそうで、アメリカで同性婚を認可させる社会的な運動にも繋がっていったことが作中でも描かれる。
しかし「まだ同性婚が認められていなかった頃のアメリカ」と書くと少し不思議な感じもする。
いつの時代だよって普通に思うし、日本は同性婚はまだ認められてないんだっけ?

冒頭に出てくるジュリアン・ムーアは「老けたなあ」という印象なのだが、しかし、それがまた見事に効いていて、時間の経過とともにその剥き出しの生がさらに魅力的に映り、素晴らしくチャーミングで美しい。
病状の悪化で見せる姿はもう鬼気迫る迫力で、さすが、さすがジュリアン・ムーアとしか言いようがない。

エレン・ペイジに至っては、本作でプロデューサーも務めたという熱の入れようで、作品を見ればそれも納得。
これエレン・ペイジ本人じゃん!と突っ込みたくなるほどで、ハマり役という言葉でも足りない感じだが、それもこれも俳優が自ら出演作をプロデュースするというとても健全な成り立ちの賜物だろう。

そしてそして、やはり、この映画にはスティーブ・カレルの存在が欠かせない。
ギャグなんだかシリアスなんだかキワキワの、喜劇と悲劇の境界線を絶妙なバランス感覚で綱渡るスティーブ・カレルの繊細な演技が、ややもすると興ざめしてしまう濃厚な感動ストーリーに複雑なスパイスと奥深いリアリティを味付けしていく。
なによりスティーブ・カレルの明るいキャラクターが作品の印象に大きく影響を与えているので、もしも感動ものの映画は苦手という人がいたとしても、彼の演技を観るだけでも鑑賞する価値がある。
それぐらい売りになると思うんだけど、なぜか日本版のチラシの表にはスティーブ・カレルの名前が載っていなくて、困惑してしまう。(写真はバッチリ載ってるんだが)人気や知名度も日本でも高いと思うんだけど…
いや、しかし、やっぱり映画においてコメディアンは徹底的に相性が良く、実際、スティーブ・カレルの怪演は「いよ!待ってました!」と声をかけたくなるほど爽快なのである。

「ハンズ・オブ・ラヴ」といういかにも邦題っぽい甘いタイトルの由来がエンディング曲のタイトルであると判明するエンドロールがまた衝撃的なのだが、そのマイリー・サイラスの歌声も見事に感動的に聞こえるのだから、間違いなく素晴らしい映画なのだ。
posted by 井川広太郎 at 20:43| Comment(0) | TrackBack(0) | REVIEW | 更新情報をチェックする

2016年09月27日

ザ・ギフト

『ザ・ギフト』(原題The Gift/2015年/アメリカ/配給ロングライド、バップ/108分)



監督:ジョエル・エドガートン
製作:ジェイソン・ブラム、レベッカ・イェルダム、ジョエル・エドガートン
製作総指揮:ジャネット・ボルトゥルノ=ブリル
出演:ジェイソン・ベイトマン、レベッカ・ホール、ジョエル・エドガートン

公式サイト http://movie-thegift.com/
10月28日(金)TOHOシネマズ 新宿ほか全国公開


幸せな夫婦の元に執拗に贈り物を届ける謎の男の行動が、次第にエスカレートしていくスリラー

実はこの映画を観たのは僕の誕生日で、「ギフト」なんて気が利いてるね!なんて予備知識無く鑑賞したのだが、めっちゃ後味が悪い鬱映画で凹みまくった

幸せそうな夫婦に忍び寄る謎の人物
恐怖が盛り上がって来ると同時に、夫婦の裏の顔も少しずつ明らかになって来る
そして…という展開はオーソドックスながら、表現も描写も演技も素晴らしく見応えがあって面白い

だがクライマックスで、あまりにも暗い事実が明らかになる!!
予想された展開ではあったが、えー…そんなん明らかになってもなあ…という感じ
さらに、そこから救いどころが無いまま、みんなガックし俯いて終わってしまうのである!!

ねえ!みんな顔上げてよ!
このまま終わらず、なんとかしてよ!
僕、今日、40歳バースデイなんです!!(´;ω;`)
posted by 井川広太郎 at 23:56| Comment(0) | TrackBack(0) | REVIEW | 更新情報をチェックする

2016年09月25日

イエスタデイ

『イエスタデイ』(原題 Beatles/2014年/ノルウェー/配給 マクザム/114分)



監督 ペーテル・フリント
製作 ヨルゲン・ストルム・ローゼンベリ
製作総指揮 ヨアヒム・ローニング、エスペン・サンドベリ
原作 ラーシュ・ソービエ・クリステンセン

公式サイト http://yesterday-movie.com/
10月1日(土)より新宿シネマカリテほか全国にて順次公開。


1960年代のノルウェーを舞台に、ビートルズに憧れる少年たちの姿を描く青春映画

面白かった!
久しぶりにちゃんとした青春映画を見た気がした。

とりとめがなく支離滅裂でファンタジック!
誰もが子供時代はそうであるように、感受性が豊かで突拍子もなく自由奔放。
そのフリーダムな感じが、これぞ青春映画!って感じだった。

ビートルズに憧れてもちろんバンドをするのだけれど、特に音楽に一生懸命って訳でもない。
青春なんで当然、エロい空想やリアルな恋愛をしたりもするのだけれど、それが全てでもない。
それだけじゃなく友情や、家族や、好奇心や、葛藤や、不安や、何よりもイタズラが優先されるような遊び心。

原作は有名な小説らしいので長大なそのエッセンスを凝縮したのかしらなどと邪推してしまうが、エロいし、純粋だし、怖かったり怯えたり、無軌道な疾走が懐かしくも感動的でもあり、なのに一本筋が通った見事な映画になっている。
毎日いろんなことがあって、いつも一生懸命で、とにかく何でも楽しい、けれど振り返ると確かに成長を実感できる、そんな子供時代を思い出させてくれる。
僕たちは現実と妄想の境目なんて簡単に越えて行けたんだってこと。

ちなみに、好きな女の子のお父さんと言葉が通じないという多言語のシーンが出てくるのだけど、それがどういうことなのか、あまりよく分からなかった。
ノルウェーも多言語国家らしいのだが、貴族っぽいお金持ちの親父さんが話す言葉が理解できないというシーンは、物語の中で何を意味するのであろうか。
映画はいろんな事を教えてくれ、いろんな疑問を生み出してくれるのがまた楽しい。
posted by 井川広太郎 at 09:05| Comment(0) | TrackBack(0) | REVIEW | 更新情報をチェックする

2016年09月03日

とうもろこしの島

『とうもろこしの島』(原題Simindis kundzuli/2014年/ジョージア・チェコ・フランス・ドイツ・カザフスタン・ハンガリー合作/配給ハーク/100分)



監督 ギオルギ・オバシュビリ
製作 ニノ・デブダリアニ、エイケ・ゴレチ

公式サイト http://www.mikan-toumorokoshi.info/
9月17日より岩波ホールにて公開


紛争中のグルジアとアブハジアの間に流れる川にできた中洲で、とうもろこし畑を営む老人と孫娘の姿を描く人間ドラマ

面白かった。
何もない島に畑を作り出す様子が無言劇で描かれ、まるで『裸の島』(1960/新藤兼人)じゃん!って思ったら、実際に裸の島リスペクトの映画らしい。

グルジアとアブハジアの間に流れる巨大な川では、秋から冬にかけて山に積もった雪が暖かくなると膨大な雪解け水となって増水し、春になると川の中に肥沃な中洲が出来上がるのだという。
その中洲に船でやってきた老人が、とうもろこし畑を作り上げるのだが、その過程が凄まじい。
何もない島に木材を運んできて加工し、小屋を建て、畑を作り、とうもろこし種を蒔いていく。
無から有を生み出していく農民の逞しさや偉大さが、ドキュメンタリーのようなドライさで延々と描かれる。
痺れる。

途中から孫娘もやってきて農作業を手伝いつつ、幾分か幼さを残す彼女は農作業に飽きたり退屈したり、外の世界に興味を持ったりする。
というのも、この川はグルジアとアブハジアの境になっていて、紛争中の双方の兵が偵察にやって来るのだ。
だが、争いになど興味はない老人は、兵たちを適当にあしらい黙々と農作業に打ち込む。
そんなある日、傷ついたグルジア兵が、とうもろこしの島に流れ着く、というお話。

前半のドライさが次第に転調し、クライマックスでは俄然ドラマティックになる。

僕はグルジア映画をあまり数多くは観たことがないのだが、観た作品は例外なく素晴らしい。
圧倒的に良い印象をグルジアに持ってしまうし、とてもとてもグルジアに行きたい。
こんな力強い映画を生み出すグルジアは、間違いなく魅力的なのだ。
posted by 井川広太郎 at 15:02| Comment(0) | TrackBack(0) | REVIEW | 更新情報をチェックする

2016年08月31日

みかんの丘

『みかんの丘』(原題 Mandariinid/2013年/エストニア・ジョージア合作/配給ハーク/87分)



監督 ザザ・ウルシャゼ
製作 イボ・フェルト、ザザ・ウルシャゼ

公式サイト http://www.mikan-toumorokoshi.info/
9月17日より岩波ホールにて公開


グルジアからの独立を目指すアブハジア自治共和国で、敵対し傷つけあったチェチェン人とグルジア人を、エストニア人の老人が介抱する人間ドラマ

めちゃんこ面白かった!
個人的にはどストライク、モロ好みの絶品。
戦争の悲惨さを描くリアルでドライな物語の中に、ユーモアと人間賛歌が溢れている。

アブハジア自治共和国は、グルジアからの独立を主張し紛争の真っ最中。
そんな中、エストニアからの移民の集落には一人の老人と、みかん畑を営む友人だけが残っていた。
戦線は近づいてきており早く避難をしなければならないが、老人はなぜかこの地を離れる意思はない。
そんな時、老人の家の側で小隊同士が衝突し、ほとんどの兵士が死亡する。
だが、アブハジアの傭兵であるチェチェン人と、敵対するグルジア人だけが奇跡的に生き残り、老人は二人を助け出して自宅で治療する。
老人の介抱の甲斐あってほどなく目を覚ましたチェチェン人とグルジア人は、お互いの存在に気づくと敵意をむき出しにし、隙あらば殺そうとする。
すると老人は、この家の中では揉め事は許さないと一喝する。
恩人である老人には頭が上がらないチェチェン人とグルジア人は、憎まれ口を叩きながらも療養のための共同生活を続ける。
考えも境遇も人種も違う三人だが、一緒に暮らすうちに少しずつ心を通わせていく。
しかし容赦なく拡大していく戦火が、いよいよ老人の家にまで迫ってきて…というお話。

シンプルな物語に個性的な登場人物、真に迫った世界観、笑いを忘れぬ姿勢、緻密でいながら温かみがあるところまで全てが魅力的。
なにより、陽気な老人のキャラクターが素晴らしい。
戦場に居座って孤独ながらしかし楽しく暮らす老人の笑いと涙を併せ持つ人間味が、悲しく不条理な戦争を描きながらも幸福な気分にさせるこの映画を体現している。

そしてエンディング曲。
前振りからしてバッチシなので「来るぞ!来るぞ!」と身構えていたんだけど、果たして、想像を遥かに超えるカッコ良い曲で震えた。
なんでも実際にアブハジア紛争中にグルジアで大ヒットした曲だとか。
これ、これなんだよ!本当に僕は何も知らない。泣かずにはいられないよ、僕は。
posted by 井川広太郎 at 00:08| Comment(0) | TrackBack(0) | REVIEW | 更新情報をチェックする

2016年08月30日

ジャニス:リトル・ガール・ブルー

『ジャニス:リトル・ガール・ブルー』(原題 Janis: Little Girl Blue/2015年/アメリカ/配給 ザジフィルムズ/103分)



監督:エイミー・バーグ
製作:エイミー・バーグ、アレックス・ギブニー
出演:サム・アンドリュー、ピーター・アルビン、デイブ・ゲッツ、クリス・クリストファーソン、カントリー・ジョー・マクドナルド

公式サイト http://janis-movie.com/
2016年9月10日(土)より、シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー!


”ブルースの女王”ジャニス・ジョップリンの27年間の生涯を当時のバンド仲間や家族などの多数のインタビューと書簡からたどるドキュメンタリー

ジャニス・ジョップリンの短すぎる人生の濃密さに圧倒されるが、音楽的な活動や功績よりも、スターの孤独な横顔が生々しく映し出される。

イジメられていた少女が構ってもらうためにセックスをし、ウケるために歌い、孤独を紛らわすためにドラッグに溺れているかのようにも見え、どんなに大きくなっても決して消えては無くならない、少女のかよわさが剥き出しになる。

力強い歌声の根元を垣間見つつ、やはりそれは個人的なものに止まらない。
ベトナム戦争を背景に、無力感と現実逃避からか若者たちは酒とドラッグとセックスに溺れ、不確かな愛に飢えながら、ウッドストックへと暴走するような熱狂的なエネルギーを、ジャニスは確実に反映していた。

しかし、この映画はちっとも古めかしくなく、むしろ現代の暗喩か未来への啓示のようですらある。
巨大資本のエゴばかりが優先される絶望的なこの時代に、新しい歌姫は降臨するのであろうか。
だとしたら、それはジャニスのように生々しい肉体と声をともなっているのであろうか。
期待と不安を感じつつ、いまこそ見るべき映画だと思った。
posted by 井川広太郎 at 13:39| Comment(0) | TrackBack(0) | REVIEW | 更新情報をチェックする