2018年05月10日

ノルウェイの森

本屋さんに行ったら、村上春樹がいた
本を山のように購入して、自前の紙袋にドサドサっと入れて去って行った

エッ!と驚いたが周囲の客は無反応で、レジで対応した店員もノーリアクションなので、あ、世の中そういうもんなんだ、作家見かけて興奮したりはしないのかとちょっと残念
サインもらって店に飾ったりはしないのか、あるいは常連なのか、そもそも俺が気づいてないだけで本屋さんの客は作家だらけなのかもしれない

と思ってたら、レジを打った店員がそそくさと後ろに回る
どうやらパソコンをいじって何か調べたらしく、それが終わるとスッと戻り、何やら同僚たちに耳打ち
一拍置いてからアッ!と声が出て、それからずっと書店員たちがザワついていた

うーん、この間、この間なんだよなー

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2018年05月09日

ナイルの娘

K'sシネマで開催中の台湾巨匠傑作選2018で侯孝賢の「ナイルの娘」を鑑賞。
「恋恋風塵」と「悲情城市」という二大傑作の間に作られたためか、なかなか上映機会がなかった幻の映画が、まさかのデジタルリマスター。
僕にとっても唯一、侯孝賢の旧作で見逃していた作品なので、まっことありがたや、ありがたや。

アイドル歌手を起用した企画ものではあるが、随所に侯孝賢の印が散りばめられていて、なかなかどうして素晴らしい。
やくざ者の兄を持つ妹の日常という、ジャンル映画にすらなりきれない独特の設定が逆にシュールな世界観を構築しつつ、そもそも物語に依存せずに台北の情景を映し出していく。

街の息吹の生々しさと対照的に、ヒロインの非リアルで地に足がつかない雰囲気が、むしろ少女漫画的なメルヘンを効果的に醸し出している。
急成長を続けコントロールを失いつつある台北という都市は、心と体のバランスを持て余す思春期の少女に似ているのか。

若きカオ・ジエがイケメンすぎるんだけど既に凄みがあって、なんなのこの色気はと思ったら本作でデビューしたらしい。末恐ろしい。
侯孝賢のマドンナ、シン・シューフェンや、キングオブおじいちゃんリー・ティエンルーも出てて勢揃い感も半端ない。
やっぱり家族とは、そろって飯は食う人達のことなのだ。

劇場は大変な混雑具合で、三百人劇場での台湾映画祭を思い出してグッときた。

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2018年05月07日

木靴の樹

僕らは映画の続きを生きている
R.I.P.


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2018年04月19日

ストリート・オブ・ファイヤー

ウォルター・ヒルの『ストリート・オブ・ファイヤー』デジタルリマスター版が、7月21日よりシネマート新宿ほかにて全国順次公開されるらしい!
なんてこった!

伝説のロック映画「ストリート・オブ・ファイヤー」デジタルリマスター上映決定
映画.com ・
http://eiga.com/news/20180419/12/


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2018年04月17日

ラブレス

「ラブレス」というタイトルなのだから傑作であることは分かり切っていたのだけれど、その期待を遥かに上回る凄まじい映画だった。
離婚協議中の夫婦の元から息子が失踪するというシンプルな物語を、重厚なフィックスと見事な移動撮影で不穏なほど力強く描いていく。

冒頭の深い森からパンして市街が見えた瞬間に全ての予感がざわめき、トイレで息子が泣いているカットでもう琴線を鷲掴みにされる。
家庭に居場所がない幼子、これ以上の哀しみがあるのだろうか。罪人よ!

全ての人物が不確かな幸福を渇望するあまり、目の前の他者には無関心という矛盾に無自覚な、歪んだ楽園。
暖かな部屋のガラス一枚向こうは寒々とした荒野で、その幻想は壁紙一枚剥がすことで廃墟に等しい実像を露わにし、非力な彼らは自力では川さえ渡ることもできず、バリケードを立てて自分を守ろうとしても血を拭い去ることはできない。
小さな箱庭を寄せ集めて築いたバベルの塔には有形無形の境界線が張り巡らされ、人と人との距離は隔たるばかりなのだ。

スマホやSNSそしてRUSSIAと全編に散りばめられたシニカルなジョークも決して大げさとは思えない。
この寓話を誰が無視できよう。
事実、少年の鮮やかな印しは人知れず朽ちていき、いまも世界は静かに引き裂かれているのだ。

神の子はもう地上から失われたのか。
向こう側には何があるのか、それが映画だ。

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2018年04月03日

シャーロック・ホームズ

ガイリッチーの「シャーロック・ホームズ」を見たら予想外につまんなかった
僕が大好きだったシャーロック・ホームズはこんなはずじゃなかったと「緋色の研究」を二十数年ぶりに読み直してみたら、矢張りべらぼうに面白い。やっぱこれだね!
映画もだけど、特に読書に関して最近はすっかり再読ばっか。以前に読んで良かったものを時間が経ってから再び味わう愉しみは格別

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2017年12月29日

2017年ベスト10

『ハクソー・リッジ』(2016/メル・ギブソン)
極めて優れた戦闘描写で痛みを詳細に描く戦争映画の傑作であり、大作映画はこうあるべきという手本


『氷の下』(2017/ツァイ・シャンジュン)
”分かり易さ”という幻想に麻痺させられた感覚が、圧倒的な映像美を前に覚醒していくような興奮


『天使は白をまとう』(2017/ヴィヴィアン・チュウ)
欺瞞に満ちた”答え”を受け入れられない少女の困惑と失望と疾走は現代中国の「大人は判ってくれない」


『四月の永い夢』(2017/中川龍太郎)
移動撮影の心地よさと切り返しのリズム感で躍動する映像が、繊細な感情と情景を纏う映画女優を讃える


『この世界の片隅に』(2016/片渕須直)
戦争と人の営みをアニメならではのリアリティで描き、こうの史代の世界観を見事に映画化した情熱


『ビッグシック』(2017/マイケル・ショウォルター)
深刻な状況を面白おかしく、軽くはなく重くもなく絶妙なバランス感覚で描くレベルの高い演出が圧巻


『禅と骨』(2016/中村高寛)
ドキュメンタリーでありながら映画本来の自由なフォルムで、アニメやドラマも挿入される奔放な人生賛歌


『ジョニーは行方不明』(2017/ホァン・シー)
映画の被写体とは都市そのものなのだと高らかに宣言しつつ、いまの台湾に生きる人々を活き活きと描く


『馬を放つ』(2017/アクタン・ アリム・クバト )
田舎の馬泥棒の話が、遊牧民族の誇り、宗教と歴史、そして男の浪漫と父と子の寓話へと展開して行くスケール感


『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』(2017/石井裕也)
いまの東京の絶望感を生々しく描きつつ、同時にそこに潜む希望と美しさを感じさせるポジティブな力強さ
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2017年12月24日

東京失格



アップリンク渋谷での上映イベント「東京恋愛人vol.2」にご来場くださった皆様、ありがとうございました。
応援してくださった方々もありがとうございました。

「東京失格」の出演者が駆けつけてくれて同窓会みたいで楽しかったけど、みんなちょっとオッさんになってた。
逆に言えば、映画の中のみんなは若い。
そこに映っている東京も、今よりちょっと若いんだよなあ。
このフレーズは昨日見に来てくれた人が言ってたやつだけど、気に入ったので使わせていただきます。

アニメーション監督の水崎淳平さん、作家で脚本家の狗飼恭子さんを招いてのトークイベントもめちゃくちゃ楽しかった。
すごく参考になるお話をたくさん聞けて、勉強になった。ありがとうございました。
さらに、まさかの展開でお客様からの質問を受け付けることになったのだけれど、これが意外と盛り上がって、するどい質問を頂けてとても刺激的で面白かった。励みにいたします!

初公開から11年も経ったDVDも出ている小さな映画を上映して頂き、本当に嬉しかったです。
主催で同時上映「キリトル」監督の田中情さん、お疲れ様でした。
やっぱり劇場で上映して、お客様や仲間と分かち合う映画は格別!
また十年後とかに上映する機会があったら良いなあ。
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2017年12月19日

Tokyo Filmgoer

英語字幕付きで上映される映画を紹介するサイト「Tokyo Filmgoer」に、12/23にアップリンク渋谷で開催されるイベント「東京恋愛人vol.2」の情報を掲載していただきました。ありがとうございます!
「東京恋愛人vol.2」では、『キリトル』(2009年/60分/田中情監督)、『東京失格』(2006年/91分/井川広太郎監督)共に英語字幕付きで上映いたします。

There is the article about "TOKYO RENAIJIN Vol. 2: LOST IN TOKYO x KIRITORU" In "Tokyo Filmgoer”, which is the site of the information of the English-subtitled screenings of Japanese films.
Please check it!

http://tokyofilmgoer.com/lost-in-tokyo_kiritoru/
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2017年12月18日

海賊ラジオ

ラジオアプリ「勢太郎の海賊ラジオ」内の「福島拓哉のオルタナラジオ船」という番組で12/23(土・祝)にアップリンク渋谷のイベントで上映される監督作『東京失格』(2006)を紹介させて頂きました。
緊張のあまり何話したのか覚えてないけど、主演の福島さんと一緒に行った2006年のバンクーバー国際映画祭での思い出などを語ったような…
1/15まで無料で配信されているようです。ご興味がある方は是非アプリをDLし聴いてみて下さい!
どうぞよろしくお願い致します。
https://appsto.re/jp/CGtf8.i
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2017年12月06日

ニンジャバットマン

12月23日(土祝)にアップリンク渋谷で開催されるイベント『東京恋愛人 Vol.2』で監督作『東京失格』(2006年/91分)が上映されます。
2回目19時40分の回上映後のトークショーのゲストが、アニメーション制作会社「神風動画」代表取締役で、ご自身もアニメーション監督でもある水ア淳平さんであることが発表されています。
オンラインチケットの取り扱いやその他の詳細はイベント公式ページでご確認ください。
どうぞよろしくお願いします。
http://www.uplink.co.jp/event/2017/49416/

水ア淳平さんと言えば、「ジョジョの奇妙な冒険」シリーズOP や「ドラゴンクエスト」シリーズOPで有名なアニメーション制作会社「神風動画」代表取締役であると同時に、最近は監督作『ニンジャバットマン』が2018年劇場公開予定ということで大変に話題になっています。
バットマンが日本の戦国時代にタイムスリップするという想天外な物語は、日本のアニメ、アメコミ、そして忍者という国際展開する三者が時代の必然でコラボレーションした結果であり、そのダイナミックなエンターテイメント性に世界中のファンがザワついているわけですが実際、予告編観てもクオリティがスゴい!
そんな水アさんが、『東京失格』や『キリトル』をご覧になってどんなお話をされるのか想像つきませんし、バットマン好きの俺としてはいささかの混乱を禁じ得ないほど興奮しております。
本当に来るの?そうなの?マジで?

posted by 井川広太郎 at 14:53| Comment(0) | lost in blog | 更新情報をチェックする

2017年11月27日

キリトル



12月23日(土祝)にUPLINK渋谷で開催されるイベント「東京恋愛人 Vol.2」にて、井川広太郎監督作『東京失格』(2006/91min)が上映されます。
そして同時上映は、小野まりえさん、青柳尊哉さん、英由佳さん、池内万作さんが出演している田中情監督の『キリトル』。
こちらも田中情監督のデビュー作で、初公開は2009年と8年前の作品。
この機会にぜひ、ご覧ください。

前売り券はイベント公式ページで絶賛販売中です。
「東京恋愛人 Vol.2」 http://www.uplink.co.jp/event/2017/49416/
posted by 井川広太郎 at 18:54| Comment(0) | lost in blog | 更新情報をチェックする

2017年11月22日

氷の下

東京フィルメックスが絶賛開催中で、「天使は白をまとう」とか「ジョニーは行方不明」とか今年も面白い映画が盛り沢山なのだが、今日観た「氷の下」がヤバかった。

フィルムノワール、なのか?
現在の中国で、社会の底辺にいる悪い奴が悪いことしてロシアに逃亡したら美女に会うのだが、それにしても全く話が分からない。
誰が誰で、何がどうして、ここはどこ?あなたは誰?
なんで?なんで?と、僕のような”分かりやすさ”に犯された凡人には、ちんぷんかんぷんである。

じゃあ、どうでもいいのかって言うと、その反対で。
映像があまりに美しい!
全カット、見事な美しさ!
ロケ地どこだよ、こんなとこでロケできるのかよ!いろんな意味で!
こんな美しい映像は見たことないというほど素晴らしい映像が延々と続き、演技も、音も、何もかもがクオリティが凄まじい。
話は全く分からないのに、脳内のリミッターがヤバいよ!ヤバいよ!と叫び続けて、一瞬も目を離せない。

こんなに莫大な金かけて、こんなに意味不明の映画を撮っていいの?できるの?そんなこと?
そもそも冒頭に「公映」とかいう中国で一般に上映していいですよとかいう謎の先付けが出るんだけど、良いの?中国でこれ上映して?大丈夫なん?
やっぱ中国すごいね、懐深すぎだね。

そして、ラストのシークエンスがもうぶっ飛びで「あ、分からなくていいんだ」とようやく悟る。
それまでの労をねぎらうかのように「理解できなくていいんだよ」と優しく抱きしめられ、一気にファンタジーの世界に連れて行ってくれる。
ぶっちゃけ癒される。あ、いいんだ。いいんだよね、これで。

なに言ってるのか分からないと思うけど、俺もよく分からない。
けど、この映画はヤバいってことだけはなんとなく分かる。
良いとか悪いとか、面白いとかつまらないとか、そういう次元を超えてるのかも。
とりあえず世の中は広くて、すげえ映画はいっぱいあって、映画の可能性は無限大だってこと。

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2017年11月10日

12/23『東京失格』上映@アップリンク



井川広太郎監督デビュー作「東京失格」(2006/91min)が、12月23日(土祝)に渋谷アップリンクで開催されるイベント「東京恋愛人 Vol.2」にて上映されます。
田中情監督の『キリトル』と同時上映で、16:40の回と19:40の回の二回上映されます。
一回目の上映後、出演者をお招きしての舞台挨拶を予定しております。

その他、詳細は決定し次第、順次発表していきますので、イベント公式ページにてご確認ください。
どうぞ、よろしくお願いいたします。

アップリンク・イベント紹介ページ「東京恋愛人 Vol.2」http://www.uplink.co.jp/event/2017/49416
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2017年11月06日

バウンド

auからUQの格安SIMに替えた
そもそもグループ企業?だし、いずれにしろ電話会社の猥雑な契約や複雑な料金システムは似たようなもん
けど、まあ番号ポータビリティがある以上、今後もサービスに合わせて気軽に変えたい
というわけで電話といえば「バウンド」
ウォシャウスキー姉妹が兄弟だった頃に作ったレズな女強盗を描くクライムサスペンス

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2017年10月06日

ワン・プラス・ワン

アンヌ・ヴィアゼムスキーと聞いて真っ先に浮かぶのが「ワン・プラス・ワン」なのはどうなんだろうと思ったが、この予告編を観ればやっぱり彼女に一番相応しい映画なんだと

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2017年09月16日

パリ、テキサス

ちょっとここのところ創作意欲というか、新しい脚本のアイデアが浮かばずに苦しい
内から出てくるものがなく、なんとなく無気力
ぽっかりと胸に穴が空いたような気持ち
でも、そういう時間やエモーションもまた掛け替えのないもの
僕はパリ、テキサスのような映画が好きで、そんな映画を撮りたかったんだ

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2017年09月07日

禅と骨

大ヒット作「ヨコハマメリー」の中村高寛監督による映画「禅と骨」を観てきた。
前作から実に11年ぶりとなる新作なのだが、制作期間も8年に及ぶという力作で、長年待った甲斐がある素晴らしい作品であった。
本作は、アメリカ人の父と日本人の母との間に生まれ、禅僧となったヘンリ・ミトワを追ったドキュメンタリーである。
のだが、ポップでハイセンスなタイトルに始まり、ドラマパート、アニメパートなども挿入され、なんでもありのお祭りのような、つまりはとてつもなく映画的な映画であるとしか言いようがない。
表現するためには決して妥協しない中村監督の強い想いが、自由に解き放たれた傑作だ。

なによりも明るく奔放なヘンリ・ミトワのキャラクターが魅力的なのだが、ハーフとして日本で育つ困難、元芸者であるという母の苦労、渡米後に太平洋戦争が勃発し強制収容所に収監されたこと、国籍の選択に迷いながらもそこで結婚し子供を授かったことなど、その数奇な運命は日本の歴史をなぞる。
なのに悲壮感はまるでなく、ポジティブとかネガティブとか言う以前に楽しく生きることに全力なヘンリ・ミトワの痕跡をたどるだけで、面白くて仕方がない。
本編の中に「知足」の話が出てくるが、とてもじゃないが足るを知っているように思えない。欲のままに生き、望み、愉しみ続けるヘンリ・ミトワの人間味あふれる生き様は、果たしてあの困難な時代をもこうして生き延びたのかと納得させるほど、どうしようもなく素敵だ。

帰国後に文字通り日米の架け橋となるべく僧侶となってからも、ヘンリ・ミトワはむしろ拍車をかけて破天荒になっていくわけだが、それに振り回される家族の視点からも話が展開していくのも素晴らしい。
近くで、冷たくも優しく彼を見守る家族は、時に喧嘩し、いら立ち、距離を取り、それぞれが自立した一個人として敬愛を持って接する。そうしたどうしようものさを抱えた家族的な営みにシンクロして、ヘンリ・ミトワを決して美化せず、むしろ徹底的に生々しく泥臭く真実味を持ってカメラは迫り続ける。

その結果、被写体であるヘンリ・ミトワと監督との関係性がむき出しになっていく。
被写体との関係性とその変化を包み隠さずに見せ切ってしまうのが中村監督の凄みなのだが、ヘンリ・ミトワと監督がそれぞれの率直な感情や想いをあらわにするシーンでは、ドキュメンタリーとは何か、カメラとは何か、映画を撮るとはどういうことなのかにまで肉薄する。
そこで、ヘンリ・ミトワと監督が似ているのだと気づく。頑固で、奔放で、決して譲らず、しかし優しく寛容で、一切の妥協をしない、ものづくりをする人間の狂気じみた信念の強さと、それを分かち合った者同士の共感がそこにはあり、乱暴だったり口は悪かったりしても、彼らはつねに真剣でどこまでも真摯なのだ。

膨大な取材を重ねたドキュメンタリーに加え、俳優たちが演じるドラマパートがまた良い。
ヘンリ・ミトワを誠実に演じるウエンツ瑛士に始まり、画面に圧倒的な母を示してみせる余貴美子、そして緊迫するシーンで緊張感をたぎらせる永瀬正敏など、各俳優がドキュメンタリーのインパクトに負けない存在感を発揮していて、驚くほど見応えある。

さすがドキュメンタリストでありながらドラマ演出にも長けた中村監督という印象だが、いずれにしろ、ドキュメンタリーやドラマやアニメを自在に行き来するスタイルもまた、ヘンリ・ミトワの奔放さを表しているような気がしてならない。ハチャメチャでありながら、これしかなかったのだ!という強い意思とそれを貫いた爽快さも感じられる。
映画本来の自由なフォルムで、やりたい放題楽しんで、何はともあれ生きて死んだ。メチャクチャ面白い人生賛歌。これは是が非でも!
9/2(土)よりポレポレ東中野、キネカ大森、横浜ニューテアトルほかにて、順次公開。

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2017年09月04日

エル ELLE

誕生日9月1日は、多くの劇場で割引料金で映画が観られる映画サービスデー。
バーホーベンの「エル」を観ようと思っていたんだけど、タイムスケジュールの都合で先にピカデリーで「新感染」を観ることに。
観終わってから、さて「エル」のチケットを買おうと新宿東宝に行ったら、なんと次の回は売り切れで、数時間待つ夜の回でないと空席がない。
それはしんどいので、セルゲイ・ポルーニンのドキュメンタリーを観ようとシネマカリテに行ったのだが、こちらもかなりの売れ行きで、ちょっと厳しめの席しか空いていない。
ならば初志貫徹で「エル」を観んべ!と新宿東宝に戻りチケットを購入しようとしたら、なんと狙っていた夜の回も空席があと二つ!
好きではない最前列のシートだけど、これはもう致し方ないと腹を決める。
開映まで時間があるので、一度家に帰って飯食って、新宿東宝に戻って映画を観終わったら、日付が変わる頃であった。
いやしかし、さすがバーホーベンと言うべきか、「エル」粘って観た甲斐あった。

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2017年08月31日

ハイドリヒを撃て!「ナチの野獣」暗殺作戦

占領下のチェコでナチスの幹部ハイドリヒの暗殺が計画されたという史実に基づく話だが、サスペンスとして超一級品。
さすが天才映画監督ショーン・エリス、自ら構える手持ちカメラを大胆に扱いつつ築く緻密な映像設計で、ドキュメンタリータッチでありながら劇的な映画に仕立て上げている。
冒頭のジクジクする足の怪我から始まり、徹底的に身体と心の「痛み」を演出することで、当時の状況を表現しつつ、ドラマに深みと緊張感を張り巡らせている。
大量虐殺し、密告を強要し、恐怖と武力で支配しようするヒトラーの”手口”にも”動機”にも、怒りと軽蔑と嫌悪感しか感じない。
だが、それを相手に戦う主人公たちを単なるヒーローとして祭り上げるのではなく、むしろ戦争という大局に巻き込まれた被害者の一人として扱っている。
彼らは使命感に燃えながらも、迷うし、恋もするし、無駄に命を捨てることになるかもしれないという不安と葛藤し、悲壮感すら漂っている。
激しい銃撃戦で、銃弾や手榴弾の雨あられの中でバッタバタと犬死していくドイツ兵の一人一人にも家族や恋人がいることを想起させ、戦争の徹底的な不条理さというか馬鹿馬鹿しさを強く印象付ける。
主演の二人が、クリストファー・ノーラン版「バットマン」のスケアクロウのキリアン・マーフィーと、「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」の彼であってムッハー。
そしてヒロインの二人が圧倒的に儚く可憐で美しく、素晴らしく圧倒的な運命の女感。哀しいよな。写真を残そう。

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